「盛る」生産方式が脅かす地方のモノづくり

画像: Metalworking News

2015.06.12

経営・マネジメント

「盛る」生産方式が脅かす地方のモノづくり

日沖 博道
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

「金属積層造形」という生産革新が立ち上がろうとしている。対処のしかたを間違えると、日本のモノづくりを支える地方の金属加工業や中小部品製造業にとって致命的な事態となりかねない。

昨年、ある自治体の依頼に応じて、その地域の有力企業数社の経営課題をヒアリングしたことがある。

その1社は金属加工が専門で、日本でも数少ない複雑な加工技術が可能ならしめる、特殊な形状の掘削機用刃物加工で大企業との取引が伸びていた。経営者は非常に元気な方で、将来の展望を色々と語ってくれた。

しかしその話を聞いた後で、小生はその経営者に、新しい技術の習得と適用の検討を早めに始めるよう薦めた。

また3年ほど前だが、小生がMOT(Management of Technology=技術経営)の講座を持っていた大学院のクラスに金型大手の1社から学びに来ている社会人学生の方がいた。講座の合間に色々と話をしていたのだが、当時その会社の関心は圧倒的に、中国の競合が金型技術を向上させていることだった。

しかし小生が注意喚起したのは、むしろ欧米での新しい代替技術だった。

いずれも当事者がどれほど真剣に小生の話を受け止めてくれたかは別として、ここまでお話するだけで一部の業界の方々はピンとくるだろう。

今、欧米の製造業で静かに進行している生産革新の一つ、「金属積層造形」と呼ばれる技術だ。英語でadditive manufacturing(AM:以下、「AM方式」と呼ぶ)、人によっては「盛る」生産方式とか「金属3Dプリンター」技術などとも呼ぶ。

一般の3Dプリンターは樹脂素材を「盛る」だけなので、どうしてもおもちゃっぽいイメージが強いが、金属3Dプリンターは樹脂ではなく金属粉を射出成形またはレーザー溶解することで、しっかりした金属部品や製品を成形できる。

当然、設計データは3D-CADで作成されたデジタルデータだから、素材や製造・使用環境を考慮した加工条件を編集・修正することも手軽にできる。

AM方式による最大メリットは、従来の製造法でできなかった構造の金属製品を直接作りだすことができる点だ。

例えば中空構造やスポンジ状の製品を一体成形できるので、素材の強度次第では非常に軽量化できる。または新たな機能や特徴を持たせることも可能だ。

先に挙げた掘削機の刃型も、ドリルやレーザーが外側から直接当たる範囲しか加工できないため形状の複雑さに限界があるのだが、金属を「盛る」方式であればほぼ限界はない。

または、従来なら別々の部品を比較的単純な形の金型で成形して、後で組みつけたり溶接したりしているので、手間が掛かる分だけコスト高になったり、経年変化で接続部分が脆くなり故障の原因になったりする。AM方式であれば最初から一体成形できるので、こうした問題は回避できる。

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日沖 博道

パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

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