「盛る」生産方式が脅かす地方のモノづくり

画像: Metalworking News

2015.06.12

経営・マネジメント

「盛る」生産方式が脅かす地方のモノづくり

日沖 博道
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

「金属積層造形」という生産革新が立ち上がろうとしている。対処のしかたを間違えると、日本のモノづくりを支える地方の金属加工業や中小部品製造業にとって致命的な事態となりかねない。

事実、2013 年に世界で 348 台売れている欧州製の金属3Dプリンターが、日本では2013年時点で販売実績ゼロだった(2014年11月時点でも数台と聞いている)。

http://www.jetro.go.jp/ext_images/jfile/report/070...

しかし欧州や米国では、完成機メーカーも部品メーカーも思い切って金属3Dプリンターを試行導入し、そして生産方式の一部切り替えが進んでいる。

欧州および米国の製造業が、こうした今はまだ高価な金属3Dプリンターを購入してまで、AM方式の導入を急ぐ理由は何だろうか。

もちろん、先に挙げたような、AM方式でないとできない構造の製品を製造したいというケースもあっただろうが、実際にはそこまで設計検討を尽くして、しかも取引先との契約ができている状態になってから導入した、という話は滅多に聞かない。

2~3年前の技術展示会やセミナーでのコメントでは、むしろ「これは未来を決めるテクノロジーだ」「多品種少量生産へのトレンドは変わらない」「どんな新たな機能を追加できるか、これから検討したい」といった声が多かった印象がある。

綿密に費用対効果を計算して踏み切ったというより、技術発展の方向性に賭けたのだ。先行導入してノウハウを身に着けて、中国などの新興国とのグローバル競争に勝ちたい、といった戦略的思惑が強かったのだと小生は考えている。

特に先行した欧州の製造業は、悪く云えば「バスに乗り遅れるな」、よく云えば「リスクを取らないと成功の芽を失う」といった感覚だったのではないだろうか。

それが、2013年にGEが、AM方式で先行していたイタリアの航空エンジン部品メーカーAvioを43億ドルで買収してからは、「やっぱりこの方向は間違っていない」という確信に替わったようだ。

今ではドイツのIndustry 4.0戦略の中核テーマの一つにまで格上げされている。

http://www.plattform-i40.de/sites/default/files/Re...

では今後、世界の金属加工の生産方式は一挙にAM方式に切り替わるのだろうか。小生はそうは思わない。むしろ棲み分けが進むと見ている。

事実、先行導入した欧州や米国の金属部品製造業でも、全面切り替えの前触れというより、従来方式のほうが向いている領域と、AM方式のほうが望ましい領域を見極めて展開しているようだ。

先に触れたGEでは、新潟県刈羽郡にあった操業62年のバルブメーカーを2011年に買収して、今ではGE オイル&ガスの刈羽事業所としてAM方式による生産を立ち上げようとしている(その試行錯誤の様子が先日のNHK総合「NEXT 未来のために」で放送されていた)が、課題も色々と明確になっているようだ。

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日沖 博道

パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

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