キャリアは”計画倒れ”を前提に。(【連載1】新しい『日本的人事論』)

画像: Kazuhiro Tsugita

2018.02.05

組織・人材

キャリアは”計画倒れ”を前提に。(【連載1】新しい『日本的人事論』)

川口 雅裕
NPO法人・老いの工学研究所 理事長

組織・人事に関わる全ての施策は、日本人の特性や自社の独自性への洞察なしには機能しない。それは、OSが違えば、アプリが動作しないのと同じである。欧米の真似でもない、うまくいっている会社の真似でもない、日本企業において本当に機能する組織・人事の考え方や施策について思索・指南する連載。

異動・転勤の命令には従えと就業規則に書いてあり、実現してやれないのに、何をしたいか、どうなりたいかを尋ねるのは矛盾だ。就職指導においても、キャリア・デザインが大切だとする(何がしたいか、どうなりたいかを考えさせる)のは、キャリアを会社任せにしなければならない日本の雇用慣行に対する無知であり、結果として学生に誤った労働観・会社観を与え、ひいては入社後に、描いたキャリアが実現できないという現実に直面させてミスマッチを引き起こしている可能性は高い。このように、日本的雇用慣行と「キャリア・デザイン」はそぐわないと考えるべきなのである。

実は米国の研究者でも、皆がキャリア・デザインを効果的だと考えているわけではない。スタンフォード大学のジョン・クランボルツ教授は、「個人のキャリアの80%は、予想不可能な偶発的な出来事によって成り立っている。あらかじめキャリアを計画したり、計画したキャリアに固執したりすることは非現実的だ。」「選択や計画に固執すると、それ以外の可能性を捨ててしまうことにつながる。」として、「計画的偶発性理論」を提唱している。明確な労働契約を結ぶ米国であっても、契約外の仕事は全て断るような姿勢をとるのは無理で、思い通りの仕事だけをして、計画通りにキャリアが構築されていくようなケースはないということだ。P.ドラッカーも『明日を支配するもの』の中で、「最高のキャリアは、自らの強み、仕事のやり方、価値観に合った機会をつかむことによって手にするものである。計画や運で手にするものではない。」と述べている。

企業は従業員を年功序列・終身雇用で処遇することが難しくなり、個人は生涯現役を視野に入れなくてはならなくなり、「キャリアをどう創っていくか」はますます重要な問題になってきた。これは、キャリアをデザインするというだけの単純な方法では決して解決しない。では、日本の雇用慣行・労働環境においてキャリアをどのように捉えるべきか。その具体的な考え方と実践手法について、これから考えていきたい。

【次回に続く】

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川口 雅裕

NPO法人・老いの工学研究所 理事長

「高齢社会、高齢期のライフスタイル」と「組織人事関連(組織開発・人材育成・人事マネジメント・働き方改革など」)をテーマとした講演を行っています。

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