ブランディングの後進国であることを示した「東京五輪エンブレム問題」

2015.09.03

経営・マネジメント

ブランディングの後進国であることを示した「東京五輪エンブレム問題」

川崎 隆夫
株式会社デュアルイノベーション 代表取締役

2020年東京五輪・パラリンピックの大会組織委員会は、9月1日に記者会見を行い、佐野研二郎氏がデザインした五輪の公式エンブレムの使用を中止し、新たなデザインを再公募すると発表しました。しかしそれだけで、今回の「東京五輪エンブレム問題」は解決したといえるのでしょうか?

7. 企業文化の革新・・・・・・職場CI運動の展開ほか

上記のように企業がロゴマークを一新する場合は、企業理念やビジョン、経営戦略等を企業とクリエイターが共有化した上で、社内外のステークホルダーに対する調査を実施し、デザイン開発の方向性・コンセプトを定めた後に、デザインの制作作業に取り掛かることが常となっています。

また大手企業がロゴマークを広く公募して、応募作の中から良いデザインのものを選んだなどという事例を、筆者は聞いたことがありません。それは至極当然のことであり、ロゴマークは企業のブランド戦略に関わる重要なツールであるため、企業理念やビジョン等との関連性が重要であり、単に「デザイン的に優れた作品」が良いとは限らないからです。

大会組織委員会がエンブレムのデザインを公募するのであれば、前述の「CIの実施プロセス」の1~3について、組織委員会と審査委員会の間で十分な検討が為されていなければなりません。そうでないと、エンブレムが単なる「審査員の好み」によって選ばれてしまうリスクが高くなってしまうからです。

現に今回は、審査員8名のうち半数の4名が佐野氏のデザインを推し、残り4名の審査員の意見はバラバラであったとの報告が為されています。筆者の推測ですが、これは審査委員会の中で、前述の「CIの実施プロセス」の「1~3のすり合わせ」が不十分であったことに起因するもの、と思われます。

東京五輪・パラリンピックは、多額の税金が投入されている国家プロジェクトです。単純に、審査員の好みで「デザイン的に優れた作品を選ぶ」といった次元で良いはずがありません。一般のデザインコンテストなどとは、目的や影響度が根本的に異なるからです。

しかしながら、同じスキームでデザインの再公募が行われた場合、「類似デザイン問題」についてはクリアできるものの、「東京五輪・パラリンピック」の開催意義やコンセプトの訴求、及び「日本や東京の魅力を伝える」といった目的に合致したデザインが本当に選択されるのか、甚だ疑問を感じざるをえません。

■世界に訴求する「日本の魅力」の整理・分析

政府は、昨年の6月 17 日観光立国推進閣僚会議にて決定した「観光立国実現に向けたアクション・プログラム 2014」の中で、東京五輪・パラリンピックの開催について以下のように述べています。

「2020 年に向けて、2000 万人の高みを目指すためには、「2020 年五輪・パラリンピック東京大会」の開催という、またとない機会を 活かし、世界の人々を惹きつけて、東京のみならず、全国津々浦々に開催効果を波及させるべく、オリンピック・パラリンピック大会開催後も 地域が力強く発展していくためのレガシーを生み出しながら、世界に通用する魅力ある観光地域づくりを行うことが重要である。」

次のページ■組織委員会、審査委員会にブランディングの専門家を

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川崎 隆夫

川崎 隆夫

株式会社デュアルイノベーション 代表取締役

経営コンサルタントの川崎隆夫です。私は約30年にわたり、上場企業から中小・ベンチャー企業まで、100社を超える企業の広告・マーケティング関連の企画立案、実行支援や、新規事業、経営革新等に関する戦略計画の立案、企業研修プログラムの策定や指導などに携わってきました。その経験を活かし、表面的な説明に留まらず、物事の背景にある真実が浮かび上がってくるような、実のある記事を執筆していきたいと思います。

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