高台に「もう一人の自分」をこしらえよ

画像: N.Muray

2015.08.17

仕事術

高台に「もう一人の自分」をこしらえよ

村山 昇
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

現実の自分は何かと迷い、悩み、揺らぐものである。そうしたとき、自分を導いてくれるのはほかならぬ理想の自分、目的を覚知した自分、全体を冷静に俯瞰する自分である。心理学ではそれを「メタ認知」といい、世阿弥は「離見の見」といった。

◆ボールから遠いときに何をしているか
故・長沼健さんは、往年のサッカーファンなら誰しも知る日本代表選手であり、日本サッカー協会会長としてもご活躍された方である。その長沼さんが書かれた『十一人のなかの一人~サッカーに学ぶ集団の論理』(日本生産性本部)の中に、「ボールから一番遠いとき、何を考え何をしているか」という一節がある。―――

「一試合で一人の選手がボールに直接関係している時間は、合計してもわずか二分か三分といわれている。一試合が九〇分だから、ボールに関係していない時間が八七分から八八分という計算になる。ボールに直接関係しているときは、世界のトップ・クラスの選手も、小学校のチビッコ選手も同じように緊張し集中している。技術の上下はあっても、真剣であることに変わりはない。ボールに直接関係していない時間の集中力が、トップ・クラスの連中はすごいのだ。逆にいえば、ボールに直接関係していないときの集中力のおかげで、いざボールに関係するときの優位を占めることができるし、もっている技術や体力が光を帯びることになるわけである。サッカー選手の質の良否を見分ける方法は比較的簡単だ。ボールから遠い位置にいるとき、何を考え、どういう行動をとるかを見れば、ほぼその選手の能力は判断できる」。

◆「メタ認知」「離見の見」
ところで、心理学の研究テーマのひとつに「メタ認知」がある。メタ認知とは、自分が認知していることを認知することで、いわば、現実に考え行動している自分を、もう一人の自分が一段高いところから観察することをいう。

世阿弥は約600年前に「離見の見」(りけんのけん)・「目前心後」(もくぜんしんご)と言った。つまり、能をうまく舞うためには、舞台を俯瞰できる場所に(想像上の)視点を置き、自分自身の舞いを客観的に眺めよ、目は前を見ているが、心は後ろに構えておけ、と指南するのだ。優れた舞いは、現実に舞っている自分と、それを監視し冷静にコントロールするもう一人の自分との共同でなされるという奥義である。世阿弥の伝えたことが、今日の心理学でいうメタ認知にほかならない。

メタ認知は、実は日ごろの仕事現場にも不可欠な能力である。例えば、会議や商談などで「空気を読んで」適切な発言をすること。これができるには、その場の状況の流れを客観的な位置から感じ取るメタ認知能力が必要になる。

また、何か悪い出来事やストレス負荷のかかる状況に接したとき、それをネガティブな思考回路にくぐらせず、ポジティブな解釈で対処するのもメタ認知レベルの作業である。

さらには、他社の成功事例から学ぶケーススタディは、その本質の部分を抽出して、自社に応用するという抽象化思考を行っているわけだが、これもメタ認知活動のひとつである。同様に、いま流行のクリティカル・シンキング(批判的思考)も、視点を一段上げ、そこから情報の矛盾や真偽を明らかにしていくという点でメタ認知的である。

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村山 昇

キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。

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