EQはコンペテンシーか?これはどのようにEQを認識するかで答えが異なり、研究者の間でも見解が分かれます。 EIリサーチ社ではEQはコンペテンシーを下支えする基礎的な能力だと位置づけます。ちょっと長くなりますが、理由を述べさせてください。
EQという言葉の意味は大きく3つあります。一つ目は一般的な使われ方として「人当たりのよさ」または「思いやりの大きさ」などを指してEQが高い・低いと表現される場合です。二つ目はダニエル・ゴールマン、リューベン・バーオンなどの研究者に代表されるEQをコンピテンシーとして定義する場合です。三つ目はピーター・サロベイ、ジョン・メイヤーが提唱する「感情を上手く管理し、活用することは知能である」と言う、より限定された定義です。コンペテンシー派と能力・知能派それぞれの論拠はそれぞれの著作に書いてありますが、ここではまず、EQ理論発生の背景から見てみましょう。
心理学の中では人間の感情とその制御については幾多の研究がされていましたが、EQ自体の論文発表は1990年にサロベイ・メイヤー両博士によって行われました。ここでの重要なポイントは感情の管理・活用は言葉を操る、論理的思考ができる、身体的な運動などと同等の「能力」として定義したことです。更に社会的に成功しているグループとそうでないグループを比較し、EQの差がその成功の差と相関があることを立証したことです。ある意味、あたり前ではある主張ですが、つまり成功者は頭(IQ)がよいだけでなく、自分や相手の感情にも「賢い」ということを整理したのです。両博士によるとEQは感情の識別、感情の利用、感情の理解、感情の調整という4つの能力で構成されているとし、その後、4つのEQ能力の高低を測定する検査も作りました。この4つの能力こそが狭義の意味でのEQとなります。
一方、1995年にゴールマン氏が「EQ心の知能指数」を出版し、サロベイ・メイヤー博士の発表したEQ理論を広く世間に発表しました。そしてその本の中で、EQをより広いコンピテンシーとして捕らえたのです。ゴールマン氏はEQを個人的コンピテンシー(自己認識、自己統制、モチベーション)と社会的コンピテンシー(共感性、社会的スキル)に大きく分類し、されにそれぞれを合計25のサブコンピテンシーに分類しています。ゴールマン氏はコンピテンシーの大家であるデビッド・マクレランド博士に師事した経験があり、EQをコンピテンシー的に表現したのです。人によってはこのような分類・定義の方が例えば企業における人材育成に応用しやすいと感じた結果、世界的に広まった経緯があります。現在では他の研究者も含め、複数のEQコンピテンシーモデルが存在します。
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2010.03.20
2015.12.13
横井 真人
産業能率大学 教授
個人と組織のパフォーマンス向上を研究。人の行動をスキル、知識、行動意識、感情能力、価値観等の要素に分解し、どの要素が行動に影響を与えているかの観点からパフォーマンスを分析。職場のコミュ二ケーション、リーダーシップ、チームビルディング、ファシリテーション、ソリューション営業、マーケティング等の具体的施策に視点を活用する。