「衣食住+職」足りて、“精神の飢餓感”を起こせるか

2013.07.23

組織・人材

「衣食住+職」足りて、“精神の飢餓感”を起こせるか

村山 昇
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

「腹の飢え」がなくなった私たちが、それに代わって、何かもっと大きな価値を成就したいという「心の渇き」を内面に起こし続けることができるのか。これは、個人にとっても、組織・社会にとってもほんとうに大きな課題です。

───「人間が幸福を追い求めれば追い求めるほど、ますます彼は幸福を追い払ってしまうのです。このことを理解するには、人間は結局のところ幸福を目標にしているのだという先入観を克服しさせすればよいのです。つまり、人間が実際に欲しているのは幸福であることの根拠を持つことなのです。……幸福は追求され得ない。それは結果として生じる」。 (『意味への意志』より)

幸福への根拠を持つために、いろいろと考え、行動し、もがく。そのプロセス自体が、実は後から振り返ってみてわかる幸福なのだ、これがフランクルの叫んだ主張です。私もほんとうにそう思います。だからこそ、「心の渇き」に真正面から向き合うことは生涯を懸けてやるに値する奮闘なのです。

◆大きな生き方は「大きな生き方をする人」からしか学べない
「心の渇き」が大事なことはわかる。けれども飢餓のない平穏で多忙な生活のなかでそれをどう起こせばよいのか───そんな質問もしばしば受けます。

例えば私自身は、「ロールモデル」(模範的存在)に多く触れるようにしています。強く、大きく、深く、高く生きている人と、自分とのギャップを感じることです。例えば、野口英世は自らの命を犠牲にしながら細菌研究に明け暮れた。マハトマ・ガンジーは強靭な意志の「NO」を貫き民衆を率いていった。岡本太郎は強烈に自己を爆発させ、他に媚びることをいっさいせず、そのエネルギーを作品に変えていった。そうした生きざまに刺激を受けることで、じゃぁ自分は何に生きるんだ、いまの生き方は生ぬるくないか、自分の能力を使って世の中に何の価値をぶつけていくんだ、とそんな心理モードになってきます。それが実に「心の渇き」が起こった状態ではないかと思うのです。

サラリーマンの間では、夢とか志という言葉が死語になりつつあります。仕事量とスピードが増す日々の業務現場。目標数値を達成せねばならないというストレス。不機嫌な職場での人間関係。多くのサラリーマンはともかく疲れていて、「心の渇き」とか「大きな生き方」「夢・志」とか言う前に、日々の自分をどう継続していくかだけで目一杯な状況があります……。「しかし、だからこそ!」と私は声高に主張したいのです。だからこそ、心の渇きを起こし、大きな器で構えなければ、ほんとうに健やかで朗らかな仕事人生は送っていけない、と。

最後に、フランクルの言葉をもうひとつ。

───「人間にとってまず第一に必要なものは平衡あるいは生物学でいう“ホメオスタシス”、つまり緊張のない状態であるという仮定は、精神衛生上の誤った、危険な考え方だと思います。人間が本当に必要としているものは緊張のない状態ではなく、彼にふさわしい目標のために努力し苦闘することなのです。彼が必要としているのは、是が非でも緊張を解除するということではなく、彼によって充足されることを待っている可能的意味の呼びかけなのです」。 (『意味による癒し』より)

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村山 昇

キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。

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