「衣食住+職」足りて、“精神の飢餓感”を起こせるか

2013.07.23

組織・人材

「衣食住+職」足りて、“精神の飢餓感”を起こせるか

村山 昇
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

「腹の飢え」がなくなった私たちが、それに代わって、何かもっと大きな価値を成就したいという「心の渇き」を内面に起こし続けることができるのか。これは、個人にとっても、組織・社会にとってもほんとうに大きな課題です。




そしてある程度「衣食住」が満たされる社会になってくると、また別の2つの欲求が生まれてきます。「腹の飢え」は「富への憧れ」に変わり、もっと多く食べたい、もっとよいものを食べたい、もっと美しく食べたい、になってきます。この欲求は食べることに限らず、もっとお金を持ちたい、物を持ちたい、名誉を持ちたいなど、所有全般に広がっていきます。一方、精神的な欲求としては、自己の可能性を最大限に開発したい、もっと大きな価値の実現に自分を使いたいという「心の渇き」が出てきます。

◆モノが豊富な社会にあって容易に起こらない「心の渇き」
さて、現代の日本に生きる私たちにとって、2つの対照的な課題があるように思います。1つは、放っておいても強く湧き起こってくる「富への憧れ」をどう制御していくか。もう1つは、なかなか起きてこない「心の渇き」をどう呼び覚ましていくか。

「富への憧れ」はそれ自体悪いものではありません。個人ががんばって働こうとする意欲の源泉はここに大部分がありますし、資本主義経済を回す基本的な動機もここにあります。ですが、金・物にかかわる“もっともっと”という欲は強力です。1人1人の人間がそれを際限なく追い求めたら、このかけがえのない地球環境が早晩もたなくなるでしょう。

東洋の叡智は、その欲を賢く制御せよということで、「知足」(=足るを知る)の思想を提唱しました。どこまでの欲はよしとし、どこ以上の欲は控えるか、その線引きはあくまで1人1人の人間の自律に任せられるのが「知足」の教え。単に100%欲を禁じ、欲を断ずるよりも難しいことですが、人間や社会がほんとうに成熟化するとは、これができることなのだと思います。

そしてもう一方の「心の渇き」問題。米国の心理学者アブラハム・マズローはこれを「自己実現欲求」と名づけ、「欲求5段階説」の最後5番目にあげているものです。それだけにここに自分なりの答えを見出していくことは難しい、しかし生涯を懸けて取り組むに値する問題です。

◆「欠乏を満たす」問題VS「存在意義をつくり出す」問題
「腹の飢え」にせよ「心の飢え」「富への憧れ」にせよ、それは欠乏充足の問題です。つまり、自分に不足しているものが何であるかがわかっていて、それを供給してやれば解決がみえるという問題です。しかし「心の渇き」のみは、いわば存在意義の問題です。自分が腹の底から納得できる“生きる意味・自分の役割・使命観”がじゅうぶんにわかっていない、つかみきれないという渇きです。そしてその答えはどこかにあるのではない。他人から買えるものでもない。自分で創出しないかぎり、永遠に自分を満たすことはない、そういう次元の異なった問題なのです。

次のページそれは「富への憧れ」がもつ悪い回路に取り込まれた姿です。

続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。

Ads by Google

この記事が気に入ったらいいね!しよう
INSIGHT NOW!の最新記事をお届けします

村山 昇

キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。

フォロー フォローして村山 昇の新着記事を受け取る

一歩先を行く最新ビジネス記事を受け取る

ログイン

この機能をご利用いただくにはログインが必要です。

ご登録いただいたメールアドレス、パスワードを入力してログインしてください。

パスワードをお忘れの方

フェイスブックのアカウントでもログインできます。

INSIGHT NOW!のご利用規約プライバシーポリシーーが適用されます。
INSIGHT NOW!が無断でタイムラインに投稿することはありません。