「衣食住+職」足りて、“精神の飢餓感”を起こせるか

2013.07.23

組織・人材

「衣食住+職」足りて、“精神の飢餓感”を起こせるか

村山 昇
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

「腹の飢え」がなくなった私たちが、それに代わって、何かもっと大きな価値を成就したいという「心の渇き」を内面に起こし続けることができるのか。これは、個人にとっても、組織・社会にとってもほんとうに大きな課題です。

確かにそれは研修事業者側の能力不足があって、つまらない研修を提供しているという理由があります。そしてまた、向上意欲の萎えた人たちをどうにか学ばせるのも、研修事業者の腕の見せどころでもあります。しかしながら、「衣食住+職」がひとまず安定した人たちの根っこのところの「飢餓感」や「求める心」をどう呼び覚ましていくのか、これは一研修事業者だけではいかんともしがたい難題です。

テレビ番組などでよく、貧しい国の村の子どもたちが、ボロボロの教科書と鉛筆を持ちながら目をキラキラとさせながら勉強している映像を観ます。私たち日本人はもはやあの純粋な“学ぶことの喜び”から遠いところにいます。

「腹の飢え」がなくなった私たちが、それに代わって、もっと学びたいという「心の飢え」、何かもっと大きな価値を成就したいという「心の渇き」を内面に起こし続けることができるのか。これは、個人にとっても、組織・社会にとってもほんとうに大きな課題です。日本の再生ということで、アベノミクスがさまざまに議論されています。アベノミクスはあくまで外側からの施策です。真に日本が強くなるためには、国民一人一人の内的な成長意欲、つまり、単に生きるだけでなく、よりよく生きることを志向して「心の飢え・心の渇き」を自分のなかに湧き起こせるかどうかが決定的に重要です。歴史を振り返っても、国や文化・文明を興隆させてきた根本は、人びとのなかに湧き起こるエートス(精神的気風)でした。

いまさらながら故スティーブ・ジョブズ氏の言霊が私たちに覆いかぶさってきます。

───“Stay hungry, stay foolish.” (飢えていよ・一途な馬鹿でいよ)



【発展思索】
4つの「飢え・渇き」


「渇欲・飢え」を巡る思索を私なりに整理したのが下の図です。
人間は貧しい状態から豊かな状態を目指す性質をもっています。つまり、「足りないから満たしたい」という欲求です。もし自分が貧しい社会に生活しているとすれば、2つの欲求が生まれてくるでしょう。1つには、「腹の飢え」からくる“生きたい/生きなければ”という切迫した欲求です。この欲求は、食べ物や衣服、住居などが手に入れば解消されるという意味で物質的な次元のものです。そしてもう1つは、「心の飢え」からくる“人間らしくありたい”という精神的な欲求です。この欲求は個人の尊厳や誇りに属するもので、具体的には、学校教育が受けられる、法律によって人権がきちんと守られることで解消されていきます。

次のページ◆モノが豊富な社会にあって容易に起こらない「心の渇き」

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村山 昇

キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。

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