成熟期商品の生き残り方とは?:ポスト・イット ® 製品の場合

2012.10.22

営業・マーケティング

成熟期商品の生き残り方とは?:ポスト・イット ® 製品の場合

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 一度軌道に乗った製品は、導入期、成長期、成熟期、衰退期の「製品ライフサイクル(Product Life Cycle)」を経る。そのサイクルの中で、衰退期に転落しないように成熟期で踏みとどまるという課題を抱えた商品は市場にも多く存在する。発売以来31年を経たロングセラー商品である、オフィスでおなじみの住友スリーエム「ポスト・イット ® 製品」も例外ではなかった。その生き残りのための挑戦を取材してきた。

 パーソナルにおけるメインターゲットはポスト・イット® 製品にオフィスで慣れ親しんだOLだ。男性は手帳の電子化が進んでいるが、女性は紙の手帳の愛用者が多いことから発案したターゲティングであるという。しかし、事務用品としてのポスト・イット® 製品を自分の手帳に用いて「自分の手帳にしっくりこない」「可愛くない」と考えていた潜在的なニーズギャップが存在していたことを開発担当者は見抜いた。そこで、「様々な用途に対応する各種リフィル」と、リフィルを自分の好みに合わせて組み合わせ持ち運べる「可愛いケース」を発売したのである。製品名を「ポスト・イット® 手帳用製品 ポータブルシリーズ」という。9月からの発売であるが、売上は当初予想を上回って上々ということだ。

■エモーショナルなブランド訴求を展開する

 上記の通り、アンゾフのマトリックス的にモレのない成長戦略をとっているが、まだ、克服すべき弱点があることがブランド調査で判明したという。
 ポスト・イット®ブランドのイメージとはどのようなものだろうか。「メモを書いて、貼って、はがして、また貼って」という使用方法にピッタリな程よい粘着度が製品の中核的便益であることは間違いない。その品質の高さは、100円ショップなどで販売されているノーブランドの付箋紙と比べれば明かだ。調査でもそのファンクショナルな価値の高さには高い支持が寄せられた。今後は「使ってみたくなる」「楽しい」などというエモーショナルな価値に対する支持を高めたいという。実は、前出の「ポータブルシリーズ」もその一環であり、単に女性向けにターゲットを拡大するのが狙いではなく、「楽しい商品群」を開発するというエモーショナル戦略の一部を担っているのである。
 エモーショナルなブランド訴求のために、7年ぶりにテレビCMも制作した。

 (※YouTubeでの掲出は12月まで)
 「ジブンをひらけ。」と題されたCMではさりげなく、「どこにでも貼れる」という機能も示されているが、それ以上に「前向きな自分に導く」というエモーショナルな訴求がなされていることがわかるだろう。

 自社商品が成熟期に差し掛かったとき、どのような対応を行うのかの判断は企業によって異なるだろう。だが、今回の住友スリーエムにおけるポスト・イット®のアンゾフ的なモレヌケのない商品展開の可能性を探る展開と、ファンクショナル+エモーショナルなブランド価値をさらに高める余地を探る訴求は参考になるだろう。商品開発も、ブランド訴求も、大概のことはやり尽くしたと考えがちな成熟期において、微に入り細をうがつような展開によって、成長余地を見つけることもできるのである。その意味で、ポスト・イット® 製品の事例は大いに参考になるだろう。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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