スピード経営と顧客視点:アパレルブランド「kay me」

2012.08.03

営業・マーケティング

スピード経営と顧客視点:アパレルブランド「kay me」

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 外資系コンサルティング会社出身の毛見純子(maojian works株式会社 代表取締役)はマーケティングコンサルティング会社経営のかたわら、自らも働く女性としての視点を活かし、アパレルブランド「kay me」を立ち上げた。そのスピード感とマーケティングエクセレンスな展開をインタビューで追ってみよう。(文中敬称略)

■半径5メートルでの実証調査

 毛見の最初の会社であるベネッセ。女性の多い会社としても知られているが、その元同僚にも同窓会で商品が出来上がるまでの間にヒアリングを行った。その結果、服のタイプと値ごろ感は大きな賛同を得られた。手応えがさらに強まった。
 商社とのバリューチェーンが動きだし、商品が完成した。そこで毛見は「試着会」の開催に動いた。商品を30着制作してFacebookで来場者を募り、ホテルの一室での試着会も行った。「kay me」ブランドが世に出た瞬間である。参加者は服を気に入るだけでなく、参加者同士で「このニーズは私だけではなかった」という共感が広まった。するとその場で「売って欲しい」という要望が相次ぎ、全着が完売した。そこに至って大きな手応えを感じたという。
 ここでも注目すべきは、スピード感を重視した「自分から半径5メートル以内」での調査・検証だ。ビジネスの確度を高めるためには調査は欠かせない。しかし、そこで時間を費やしてスピード感を失えば本末転倒になる。最初の30着が売れたのは、事業発案から僅か3ヶ月目のことである。

■利便性向上へ

 「kay me」ブランド販売開始から8ヶ月後の2012年2月。それまで銀座7丁目のマンションの一室に開いていた「予約制サロン」の限界が露呈し始めていた。ターゲット顧客であるキャリア女性の買い物時間と運営時間が合わないのである。また、地方からの引き合いも多くなってきた。そこで、顧客の元へ商品数着を届け、気に入った商品を購入してもらうという「無人外商サービス」である「試着便」サービスを始めた。米国の靴の通信販売で有名な「ザッポス」と同様、不要であれば返品自由というしくみだ。サービスを始めてみると、「手持ちの服と合わせて試せる」「家人の意見を聞くことができる」と大好評であり、数着送った商品の中から必ず1着は購入してもらえるという結果になったという。
 ここで注目すべきは、顧客に対して実現しているのは「利便性の向上(Time saving)」だけではないということだ。実は、利便性を上回る「痒いところに手が届く」=「私のニーズに細かく対応してくれている」という「心理的な満足感(Peace of mind)」が実現されているのである。店舗の悪条件を克服するために、顧客の立場で考えたサービスの結果である。

■銀座4丁目の常設店舗開設へ

 さらなる顧客利便性の向上のため、7月に銀座4丁目に店舗を開設した。営業時間は20時まで。予約があれば21時まで開店しているという。
 開店して1ヶ月経ってわかってきたことも多い。何といっても顧客の買いやすさが向上した結果、売上が大きく伸長した。それだけではない。店が顧客同士のコミュニケーションの媒介となっている点が大きい。単独客もいるが、グループ来店の顧客も多いという。そこでの顧客とのやりとりの情報は重要な商品開発のヒントになる。現在、さらなる品目数の増産を計画中であるという。

次のページ■「マーケティング3.0」の実現

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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