「図解」から「図観」へ~概念を「マンダラ化」する

2012.07.16

仕事術

「図解」から「図観」へ~概念を「マンダラ化」する

村山 昇
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

【設問】「リスク(risk)」という概念をあなたなりに定義し、図に表現しなさい。───「図解」がひとつのリテラシーとして注目されつつあるが、ここでは、さらにその発展形として「図観」というものを「マンダラ」をキーワードに考えてみたい。

───なるほど、両案ともひじょうに本質的な視点が入ってきたように思う。A班の定義は、リスクが一般的に危険性だけを考えるのに対し、実は機会の面を合わせ持つという両面性を捉えた。そしてまた「コイン」というメタファー(比喩)を用いている。これは誰もが誘惑される価値を持つことを含意するものだ。
 B班の定義もリスクが持つ両面性を捉えている。挑戦することのリスクと、挑戦を避けることのリスクである。また、「影」という語彙も効いている。つまり、リスクは挑戦という本体の大きさに比例して変わることを言い得ている。

◆リスクの両面性:「危険と機会」「資産と損失」
 さて、ワークショップでは、次に自グループで練り上げた定義を「モデル図」として表現する作業に移る。A班が仕上げたものが図2のAだ。
 これはこれで定義文を忠実に図化し、リスクの両面性を簡潔に表現してはいる。しかし、もう一歩踏み込んだ発展がほしい。たとえば、図1で数多く挙げられた定義のなかに、「リスクとは、人の気持ちによって大きさが変化する障害物である」や「リスクは、評価する者の心理によって伸縮するものである」といった視点がある。こうした要素を構造的に表現できればモデル図はもっとよくなる。

 ちなみに、私が考えるAの改良図を図2の右に示した。危険と機会は両面でありながら、同時に、両者の度合いは相互に呼応して大きくなったり小さくなったりするという関係性まで示すことができた。「No risk, no chance」とか「High risk, high chance」などの表記を加えることで、いっそう分かりやすくなったとい思う。

 次にB班が作成したモデル図を見てみよう。図3のBがそれだ。「挑戦する」と「挑戦しない」が上下に分けられ、それぞれにリスクを表す影が付けられている。
さて、ここからもっと思考を発展させ、よりふくらみのあるモデル図にしてみたい。この図の特徴は、横に1本の線を引き、挑戦すること(=ポジティブな態度)と、挑戦しないこと(=ネガティブな態度)を対照的に描いているところだ。そこで、そのポジティブとネガティブに着目して、関連する何かを図に加えると、より説明力が増す。

 では抽象度を上げて自問してみよう───「挑戦というポジティブな態度をとると、何が生じるだろう?」。逆に「挑戦しないというネガティブな態度をとると、何が生じるだろう?」。……挑戦の後には、成果物、経験知、感動・自信、人とのつながりといったものが手に入る。これらは自分にとって資産とも言うべきものだ。逆に、挑戦しなければこれらのものを得る機会を失う。

次のページ───「私は失敗したことがない。うまくいかない1万通り...

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村山 昇

キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。

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