「奴ら」と言うな。「我々」であれ。

2007.11.13

組織・人材

「奴ら」と言うな。「我々」であれ。

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

組織はとかく「対立の構図」を生みやすい。昨今の人材の流動化と雇用形態の多様化は、それを一層加速する。一人二人の派遣社員ならまだしも組織に溶け込みやすいが、集団で送り込まれてくる業務受託チームは、既存の正社員から見て「よくわからない奴ら」になりがちだ。本来であれば、同じ社内の「我々」として連携し、業務を効率化すべき所であるが、対立の構図がそれをスポイルするのだ。

業務受託チームが送り込まれてくるのは、コンタクトセンターではごく見慣れた風景になっている。人件費圧縮と、増大する問い合せ業務。更に離職率の高さから、正社員はもとより、派遣社員を使ったセンター管理すら難しくなっている。
派遣社員は正社員が雇用管理や業務の指揮命令責任を持たなくてはならないが、業務委託であれば、発注者と受託者が一定のサービス基準を満たす業務契約に合意できれば(Service Level Agreement:SLA)、受託者は実行チームを編成し、そのチーム内で人のローテーションや業務品質の管理までを確約する。委託側としては手間が大幅に軽減されることからその比率が急増しているのである。

指揮命令系統がチーム内で完結していることから、当然閉じた小集団として派遣先のセンターに存在することになる。さらにそのチームはセキュリティーの関係から、首から提げるIDカードなども色を変えるなど、見た目からの差別化がなされる。その結果、既存の社員から見れば「異質な集団」として映ることになる。「仕事はこなしているようだが、よくわからない人たち」と言われる受託側のメンバーにはやはり孤立感が否めない。
メンバー各々は、受託企業とはアドホックな雇用契約で結ばれている場合が多い。ただでさえ細い絆が、派遣先でも「よくわからない奴ら」と評されることによって、更に揺らぐ。そんな環境で高いモチベーションを維持し、業務成果を上げて行けるはずがない。

受託チームのリーダーは実際には、モチベーションの低下によるメンバーの突発休や、離職の穴を埋めるために汲々とし、SLAで縛られた応対品質や受電件数といった目標数字をギリギリクリアすることに精一杯なのだ。

チーム全体やメンバーのモチベーションを高揚することができれば、更に高い業務成果を上げられ、委託企業もメリットがあるはずなのだが、なかなかその認識が高まらない。同じ業務料を支払うのであれば、受託チームがより高いモチベーションを維持し、企業の一員となって貢献してくれる方が良いに決まっている。しかし、その好循環がなかなかできない。

解決策は、まず、委託側の企業とその社員が変わることしかない。受託チームを「奴ら」として差別しないことだ。
委託・受託の契約関係は確かに存在するが、現場にその関係を引きずっても一つも良いことはない。SLAで目標数値を押しつけるだけではなく、「より良い顧客サポートを実現する」といった同じ目標を共有する「我々」として一体化することが必要だ。
その目標に対して、コンタクトセンターでは、発祥の米国式として伝統的に行われる「コンテスト」のようなモチベーション向上施策にも巻き込み、一体感を形成することが重要だ。SLAは委託企業にとっては黙っていても目標をクリアさせる便利なしくみであるが、だからといって、それだけを当てにしていては更なる成果は望めない。

この業務委託という契約形態。受託チームが送り込まれるという環境は今後より多くなってくるだろう。それはコンタクトセンターだけの現象に留まらないはずだ。
組織における対立の構造、「奴ら」という位置づけを排し、「我々」として成果を出していくことがこれからはより重要になることは間違いないのである。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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