吉野家が「自社株買い」で目指す成長戦略

2011.01.18

経営・マネジメント

吉野家が「自社株買い」で目指す成長戦略

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 吉野家が筆頭株主である伊藤忠商事が保有する全株を買い取った。「経営の自由度を上げる」「中国などへの進出を加速」などと、日経新聞をはじめとするメディアが伝えるが、具体的にはどのような成長戦略を描いているのかを考察してみる。

 吉野家はやる気満々である。
「すき家」を運営するゼンショーにトップの座を奪われて久しく、昨年投入した低価格メニュー「牛鍋丼」による効果も短期間で息切れしたというマイナス面が取り沙汰されるが、吉野家には財務的な底力がある。ゼンショーと吉野家ホールディングスのバランスシート(BS)を比較してみれば、一目瞭然だ。ゼンショーはBSの右側の短期有利子負債が大きい。そのため、否が応でも規模を拡大して低単価でも日銭をガンガン稼いでキャッシュを回していくことが求められる。対して吉野家は有利子負債が少ない。それが、今回、自社株買いのためにみずほ、三菱東京UFJ、三井住友の3行から75億円の融資を受け、勝負をかけることを可能にしている。「吉野家は大丈夫か?」といった声も牛丼戦争といわれる競争環境の中で聞かれるが、どっこい、まだまだ戦いには第2ラウンドがあったのだ。

 では、吉野家は何を目指すのか。
 成長戦略を考えるフレームワーク、「アンゾフのマトリックス」で同社の展開を分析してみよう。マトリックスは、縦軸に既存市場で勝負するのか、新市場に展開するのかという市場の軸をとり、横軸に既存製品で勝負するのか、新製品を開発するのかという製品の軸をとる。次にその掛け合わせで、既存市場を既存の製品で深掘りする「市場深耕」、新市場に既存製品を展開する「新市場開拓」、既存市場に新製品を投入する「新製品開発」、新製品を新市場に展開する「多角化」の4象限を作る。

 「市場深耕」は子会社化したステーキ店「どん」などの不振もあり、本業の国内の牛丼事業をどうするのかが課題だ。前述の通り、牛丼戦争の中で競合のすき家、松屋と並ぶ価格帯を「牛鍋丼」で実現し、値下げ合戦から一線を画す構えを見せた。しかし、今年初の各社一斉値下げキャンペーンに参戦。吉野家はその牛鍋丼を下回る価格で牛丼を提供している。多くのファンからも「まさか」の声が上がった。なぜそんな展開をしたのか。
 おそらくそれは、吉野家の「牛丼へのこだわり」である。価格競争回避のため牛鍋丼を開発したが、牛丼に比べれば材料の肉質を見てもあくまでダウングレードだ。食べ比べれば違いがわかる。つまり、牛鍋丼で流出した顧客を呼び戻し、牛丼でキャンペーンをかけ、さらに通常価格に戻しても牛丼に回帰してもらうことが狙いだ。国内はメイン牛丼勝負。サブで低価格メニューというシナリオだろう。国内向けの投資余力はメディアの伝える通り、効率的ローコストオペレーション可能な店舗改装に充てる。となると、「新商品開発」にあたる、他業態の子会社はこれ以上増やさないということになるはずだ。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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