雑誌「BIG ISSUE」の売り子にもらったもの

2010.11.06

ライフ・ソーシャル

雑誌「BIG ISSUE」の売り子にもらったもの

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 売り手と買い手の関係は、有形無形の商品と対価の交換において対等である。しかし、顧客満足という考え方が台頭して以来、売り手が弱者となりがちではないか。商品の対価+αのサービスが売り手に求められる。それは基本的な接遇であったり、サプライズでスペシャルなサービスであったりするが、顧客は自らの支払う対価以上の満足を得ることが当然の権利と思いがちだ。筆者はある日、そんなことを思い直させる出来事にであった。

 「ビッグイシュー(BIG ISSUE)」という雑誌を知っているだろうか。知らない人は「全32ページで300円」という体裁と価格を聞くと「高い!」と驚くかもしれない。しかし、その価格にはワケがあるのだ。「ホームレスの自立支援」である。1991年に英国で発足し、世界で展開。日本版は2003年にスタートした。300円の定価には、路上で雑誌を販売する売り子であるホームレスの取り分、160円が含まれている。ホームページ( http://www.bigissue.jp/about/index.html )の説明では、雑誌の販売収入を得てする「路上生活→簡易宿泊所(1泊千円前後)→アパート賃貸・住所取得→住所をベースに新たな就職活動開始」という自立への目標ステップが記されている。老子の言葉「授人以魚 不如授人以漁」(人に魚を与えれば一日で食べてしまうが、釣りを教えれば一生食べていける)と同じ考え方だ。現在、多くの売り子が路上生活を脱し、恒常的な住所取得のために頑張っているという。

 とはいえ、目標達成は容易ではない。暑さ寒さに耐え、1冊ずつ、160円の収益を積み上げていく日々だ。「ベンダー」と呼ばれる売り子としての登録を証明する身分証を首からさげる以外、販売にマニュアルはなく、通行人に買ってもらうためには各自の努力に依る。
 「BIG ISSUE」のホームページのトップの画像を見ると、雑誌を高く掲げて通行人にアピールしている販売スタイルが掲載されている。( http://www.bigissue.jp/ )「ああ、あの人たちか!」と思い出した人も多いだろう。買ってもらうために、多くの売り子は身なりをこざっぱりとし、ホームレスには見えない。

 筆者はといえば、2006年ごろ存在を知り、売り子を見かけると購入する読者となっている。ページ数が少ない割には記事がしっかりしており、例えば最新号はロックバンド、ボン・ジョヴィのリーダー、ジョン・ボン・ジョヴィの独占インタビュー記事が掲載されている。彼がホームレス支援活動を行っていることなどはWikipediaにも載っていないし、コアなファンでもなければ知らないのではないだろうか。そんなオリジナリティーも魅力だ。

 長い前説から、ようやく本題に入る。前述のジョン・ボン・ジョヴィが表紙で微笑む、最新号を筆者が手にした時の話である。

 ある日の夕暮れ時、筆者は足早に有楽町・交通会館側の駅前を歩いていた。目にBIG ISSUEの売り子が目に入ったが、少々急いでいたことと、財布に小銭がなかったことを思い出して、その横を通り過ぎた。通りすがりざまに売り子と目が合った。そして、なんとなく気になって、100メートルぐらい進んでから引き返し、彼に「ください」と声をかけた。
 すると、その売り子は「きょうは線路の反対側に来て売ってるからね」と笑顔を浮かべて妙なことを口にした。その笑顔、少しいたずらっぽい目の光を見た刹那に記憶が蘇った。BIG ISSUEを買う場所はいつもバラバラで、出張先の名古屋駅前で買ったこともある。だた、確かにこの売り子から何度か購入したことがある。
 彼は話を続けた。「いつも反対側(東京国際フォーラム)を通るでしょ?今日はどうしたのかな、違う人だったのかなと思っちゃった」。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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