自動車販売不振は「買わない自由」の顕れか

2007.10.04

営業・マーケティング

自動車販売不振は「買わない自由」の顕れか

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

「新車販売27年不振ぶり低水準」「軽も失速、縮小止まらず」の見出しが10月2日の日経新聞に躍った。日本車勢の海外での活躍とは裏腹な、国内販売状況。様々な原因が考えられるが、やはり生活者の購買理由に目を向けてみるべきだろう。そんな視点で少し「ニュースの理由」を考えてみたい。

かつて「3C」ともいわれた「新・三種の神器」。カラーテレビ、クーラー、自動車(カー)。どの家庭もそれを手に入れようと一生懸命働いた。まだまだ高度成長の名残があった。さらに、カラーテレビは低価格化が進み家庭に複数台あることも当たり前になり、エアコンも各部屋装備になった。だが、車だけは特に都市部においては駐車スペースの問題もあり、一家に一台。地方でもメインと軽自動車という構成だ。
つまり、自動車はテレビやエアコンとことなり、自分と共に移動し、人に見せられることから自己顕示欲が反映しやすい商材であったことも特徴だ。故に、最後まで「見栄消費」が残ることとなり、唯一、もしくはメインの車は少し背伸びをしてでもいいものを買うという傾向があった。

しかし、生活者は徐々に、しかし、確実に気が付いてしまったのだ。高い車を目指すことだけが選択肢ではないと。さらに、別に買換えなくてもいいんだと。
さらには、生活者の都心回帰がとどめを刺したのではないだろうか。公共交通機関の利便性が高く、逆に駐車場などのランニングコストが高くつく。すると、別に車がなくてもいいんじゃないかという選択肢が出てくる。
若者離れも痛い。携帯電話料金を初め、若者の支出は大きく変わった。デートに車が必須という価値観も失われたようだ。そもそも免許を取らない若者も増えている。

■価値観の多様化と「買わない自由」

80年代のマーケティングのキーワードは「差別化」。旺盛な消費市場がありつつも、その市場のパイは飽和に向かっていた。いかに競合からパイを奪い取るかが成長のカギだった。続く90年代はバブル崩壊以降、冷え込む消費に対し、顧客を囲い込むことに企業は腐心し、十人十色にいかに応えるかという発想に転換した。それによって、かろうじて消費は保たれていた。
しかし、昨今、いよいよ生活者は「物を買わない自由」を手に入れてしまった。他の生活者の購買状況やその過程をつぶさに知ることができるインターネットの普及も大きな要因だ。「なぁんだ、みんなも意外と考えて買うようになったんだ」と、企業に躍らされなくなった。「まぁ、買わなくてもいいか」が、昨今の生活者のココロを表わすキーワードだろう。

唯一、買い換えが進んでいるのは意外なことに、白物家電だ。丈夫になり、故障だけが買い換えの理由ではなくなっている。なぜ買換えられているのかといえば、省電力や節水といった「エコ需要」だ。某家電メーカーの「買換えることによるエコ」という訴求は当たった。
では、自動車はどうか。実に生活者は既にエコな買い換えを行っていたのだ。
小型化、低燃費化した車に既に乗り換えている。一部はさらにハイブリッドなどへの乗り換えも進んでいる。これでさらに買い換えを勧めれば、エコを唱っているメーカーは自己矛盾を起こすことになる。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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