カップヌードル カレーの「肉変更」で意地を貫き通した日清食品

2009.09.15

営業・マーケティング

カップヌードル カレーの「肉変更」で意地を貫き通した日清食品

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

9月14日より、「カップヌードル カレー」の肉が「カレー専用コロ・チャー」に変更された。カップヌードルのふにゃっとした肉、「ダイスミンチ」から、コロッとしたチャーシュー「コロ・チャー」への変更、シーフードヌードルへの「貝柱」追加投入に続く具材強化は、代表的3ブランドで完成した。 しかし、その狙いはそもそもなんだったのだろう。

「新・うまい! カップヌードル」をコンセプトにした一連の取り組みが始まったのは、今年の4月のこと。しかし、その1年前、2008年にカップヌードルは一度、消費者から手痛い洗礼を受けたのである。
小麦をはじめとした食料高が世界に蔓延し、日本市場もその直撃を受けた。麺を扱う日清食品はまさにその爆心地にいたといっていい。苦渋の決断の末、主力商品のカップヌードルの卸値を15円値上げした。結果的に流通マージンが上乗せされ、店頭小売価格は30円の値上げとなった。
その結果、値上げ前月比-52%という、売上げ半減に陥ったのである。

カスタマーバリューという、顧客が「これくらいなら払ってもいい」という相場感は、カップ麺の場合、あるネット調査によれば70%が150円までで、そのうち30%が100円までと回答した。カップヌードルは値上げによって150円の上限を超えてしまったのだ。

価格設定の代表的な観点は大きく3つある。前述の顧客が払ってくれる価格を想定した「カスタマーバリュー志向」の価格設定と、自社の原価(固定費+変動費)にいくら利益を利益を積み増そうかと考える「原価志向」の価格設定。そして、競合の価格設定を考慮した「競合志向」の価格設定である。
実際にはどれか一つで設定することは危険で、3つの価格設定を考慮して最終決定を下すのであるが、カップヌードルの値上げは「原価志向」が優先された結果、顧客の離反を招いたと解釈できる。

しかし、日清食品の英断はここからなのだ。
食料の原材料高騰が一服し、社内では再び値下げをしようかという議論もあったようだ。
しかし、同社はあえて値段は据え置きで、具材強化という方法で顧客に対する提供価値を強化する道を選んだのである。

カップヌードルの肉を「ダイスミンチ」から「コロチャー」に変更すると発表した当初、同製品のファンからは「カップヌードルらしさが失われる」と多数の反発があった。しかし、あえて断行した結果、実際の商品発売後は、反対意見はきれいに消えて称賛の声が高まっている。続く、シーフードヌードルの「貝柱投入」も好評だ。
今回のカップヌードル カレーの肉はリリースによれば<「コロ・チャー」をカレーで煮込んだような味付けにしたカップヌードルカレー専用の新具材>だという。恐らく、これも好評をもって受け入れられるだろう。

日清食品の英断は、価格設定において「競合価格」を強く意識して、自社の価値を高めたことだ。ネット調査にある30%の「100円まで」しか払いたくない層をバッチリ取り込むように、スーパーのプライベートブランド(PB)商品のカップ麺は88円、98円である。いくら頑張ってもそれと勝負はできない。
かといって、ムリをして70%の150円という意見に合わせて、再度値下げするより、顧客の「カスタマーバリュー」を引き上げることを狙って具材を強化し、それが奏功したのである。まさに、意地を貫き通すチャレンジが成果をあげたといえる。

価格設定は、マーケティングの4Pのうち、最も重要かつ、センシティブな要素だといえる。製品を作る(Product)、チャネル(Place)を構築し維持する、広告を展開(Promotion)する。これらは全て「コスト要因」である。故に、利益を上げる唯一の要素、価格設定(Price)を誤れば、全てオシマイなのだ。
その価格設定で意地を貫き通して製品改良を続けた日清は、誠に見事だといえるだろう。天晴れ。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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