キリン「コクの時間」が仕掛けるガチンコ勝負

2009.06.25

営業・マーケティング

キリン「コクの時間」が仕掛けるガチンコ勝負

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

「コク」である。キリンビールが「コク」を訴求している。それは成長分野でキリンがアサヒに仕掛けたガチンコ勝負だ。

「あ、清冽!」。元フジテレビアナウンサー・内田恭子がCMでグラスを傾け一口飲んでつぶやくセリフだ。6月24日発売・キリン「コクの時間」。
同製品は全く新しい製法によって「コクの概念を変える全く新しいコク」を実現したという。同製品紹介のWebサイトによると<清涼感のあるホップの香りが、引き締まった後味を生み出し飲んだ瞬間に実感できる、新しいおいしさ>とある。「清冽」とは「水が清く冷たいこと(広辞苑より)」。つまり、引き締まったのどごしを端的に訴求する言葉なのだ。

この「コクの時間」は第3のビールという、いわゆる新ジャンルビール系飲料である。迎え撃つアサヒの第3のビールにおけるフラッグシップは「クリアアサヒ」。「クリア」というネーミングと「うまみだけ。雑味なし。」というコピーで製品の特性を訴求する。
「うまみだけ。雑味なし。」のアサヒ「クリアアサヒ」。それに対して、「コク」で「清冽」なキリン「コクの時間」。どう見てもガチンコ勝負である。

因縁浅からぬ両社ではあるが、キリンはアサヒになぜ、ガチンコ勝負を挑んだのか。
第3のビールには、麦芽を原料とする発泡酒にリキュールを加えた「リキュール(発泡性)」と、麦を使わず大豆たんぱく・えんどう・とうもろこしを原料とした「その他醸造酒(発泡性)」がある。キリンビールの第3のビールにおけるフラッグシップ「のどごし生」は後者である。
キリンビールの戦略の特徴は、この第3のビールの両カテゴリーに商品を配していることだ。ライバルのアサヒビールは選択と集中で、「リキュール(発泡性)」にのみ特化して製品を開発・販売している。
ビール系飲料は昨今、ビール、発泡酒カテゴリーとも売上げの減少が止まらず、低廉な第3のビールカテゴリーのみ成長が続いている状況だ。しかしその中でも「その他醸造酒(発泡性)」の成長が鈍化し、「リキュール(発泡性)」の成長が顕著になってきたのだ。ある意味、アサヒビールの戦略があたったといえる。しかし、キリンとて、そのまま指をくわえてみているわけにはいかない。かくして、ガチンコ勝負の戦端が開かれたというわけだ。

ガチンコ勝負ではあるが、キリンの戦略は勝負の「軸」を微妙にずらしていることが伺える。もはや苦くてもったりコッテリした昔の「コク」が受け入れられないのは明らかなので、「清冽」を訴求している。しかし、あくまで中心とした訴求ポイントは「コク」であり、パッケージに描かれた「麦」と新製法でさらに香りを高めたという「ホップ」なのである。対するアサヒは「クリア」とスッキリしたのどごしを中心に訴求する。
キリンには「のどごし生」がある。「その他醸造酒(発泡性)」は少なからず「コク」を求める層には薄味過ぎるが、「のどごし」好きは、そのスッキリ加減がいいという。
つまり、スッキリ好きは「のどごし生」でしっかり囲い込み、さらに「コク」を求める、ビールや発泡酒から低廉な第3のビールからの乗り換え層を取り込もうという戦略である。それは、「リキュール(発泡性)」「その他醸造酒(発泡性)」両カテゴリーを抱えるキリンだからこそできる二面戦略である。対するアサヒは「クリアアサヒ」の単発エンジンで迎撃しなければならない。

第3のビールという薄利で苦しい戦いカテゴリーが、唯一残された成長分野であり主戦場となった。低価格志向を高めながら価値を求め、さらには嗜好が多様化しているという、厄介な今日の消費者のハートを捕らえるのはキリンかアサヒか。その戦いの趨勢が両社の今後を占うように思えるのは筆者だけであろうか。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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