トヨタはなぜ、キレたのか?

2009.06.02

営業・マーケティング

トヨタはなぜ、キレたのか?

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

ホンダ・インサイト対トヨタ・プリウスの戦いが激化している。それもあり得ないぐらいの激しさで。

筆者が業界関係者から聞いた所では、プリウスの価格設定では、トヨタ自動車にはほとんど利益が残らないだろうということであった。まずは、売上げをたて、系列を含め部品メーカーなどにも売上げを立てさせる。販売会社も売れればキャッシュが動く。停滞した自動車市場を少しでも流動化させる必死の策であるということであった。

しかし、トヨタは利益をあきらめるほど甘くはないと、筆者は考える。
低廉な価格設定、場合によっては初期段階では赤字も覚悟して、早期に市場のシェアを獲得する価格戦略を「ペネトレーション(市場浸透)戦略」という。
その戦略の要諦は、競合があきらめるぐらいの低価格をもって参入障壁を築くこと。その意味では、ホンダ・インサイトの価格はトヨタの誤算でもあっただろう。致し方なく、トヨタはより一層のペネトレーション・プライシングをプリウスに設定した。

ペネトレーションで利益を出す方法は、とにかく数を売ることだ。規模の経済によって、固定比率を圧縮し、経験効果によって生産性を向上させ、変動比率も圧縮する。固定費・変動費という原価を圧縮することによって、利益を絞り出していくのだ。
利益をひねり出していくことはトヨタのお家芸である。しかし、インサイトの出足は好調すぎた。みるみる数万台という予約を取り付けられてはトヨタのシェア最大化によって利益を創出するという目論見が潰えることになる。ここが一つの「虎の尾」なのだ。

もう一つ理由がある。ポジショニングの問題だ。
トヨタのハイブリッド技術はホンモノで、ホンダはダメダメとの露骨な表現。それは、トヨタの「環境技術」のアピールでもある。
初代プリウスの登場は1997年。その頃からトヨタは「エコロジー」をポジショニングの中心に据えた。環境をテーマにした広告やイベント、各種スポンサード。これでもかと、「エコのトヨタ」「環境のトヨタ」をピールしてきた。それはナゼか。理由は自らのポジショニングを明確にするためである。

フィリップ・コトラーは著書「マーケティングコンセプト」の「ポジショニング」の項で、今日の米国ビッグ3凋落の理由を早くにして指摘している。曰く、欧州車はBMWが「究極のドライビングマシン」やボルボの「世界一安全な車」などと、ポジショニングが明確なのに対して、米国車は曖昧であると。フルラインナップを揃える米国ビッグ3は、とりあえずラインナップのスキマを見つけては新車種を上市する。そして、個別車種に後付でポジショニングを行う。その結果、GM・クライスラー・フォード各社は、自動車会社としてどんなポジショニングなのかが極めて曖昧になっているという指摘である。
ポジショニングは、消費者のアタマの中にどんな魅力があるのかが明確にイメージできることがキモだ。その魅力が曖昧になるのは極めて危険なことなのだが、それに気付いていなかったわけだ。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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