ちょっと心に染みた
ブランディングの話

2009.02.20

営業・マーケティング

ちょっと心に染みた ブランディングの話

弓削 徹

放送作家、また脚本家として知られる小山薫堂氏。彼はテレビ制作のためにアイデアを発想するのですが、そのなかにはブランディングや販売促進に向けられた企画もあります。

ふだん、放送作家の人は表には出てきませんので、“小山薫堂”といっても、ご存じない方も多いと思います。あの「料理の鉄人」「カノッサの屈辱」を仕掛けた人、さらにアカデミー賞にノミネートされた日本映画「おくりびと」の脚本を担当した人、と言えばピンと来るでしょうか。

その小山氏が書いた「考えないヒント」という本を読みました。内容は、「考えようと構えなくともアイデアが出てくるような体質になろう」というものです。

この本の中にはマーケティングや販促にまつわる話柄も多く出てきます。販促の手法とはいえ、いずれも彼自身のテレビや雑誌での特別な人脈や露出ありきの戦術であり、基本的には一般の人にはいかせないアイデアかもしれません。

そこは、やはり販促のプロではないから、と思うしかないのですが、ひとつだけ、ご紹介しておきたい、心に染みる事例がありました。

彼は、日光金谷ホテルという歴史あるホテルの顧問をしています。しかし、ホテルが時代と合わずに宿泊客が減って行くにつれ、従業員もやる気が失せていることを憂い、ある企画を思いつきます。

それは、ホテル従業員一人ひとりに「あなたがホテル内でいちばん好きな部分、場所はどこですか」と質問し、答えたものを撮影して当人の名刺の裏にそれぞれ印刷する、というもの。

そして、宿泊客には「従業員から名刺をもらって集めると、当ホテルのミニ写真集ができあがりますよ」と告知します。

これにより、お客様は従業員に話しかける理由ができる。従業員も自然に受け応えできる。話が弾めば、「お客様、珍しい1枚が欲しいですか?」と奥の調理場のスタッフに引き合わせたりするかもしれない。

ホテルのランクを映すものに、スタッフの会話力があると弓削は思います。低価格ホテルには会話そのものがない。三流ホテルなら、ごく事務的、または慇懃無礼な口調。一流ホテルでは、非日常的空間を感じさせる上質な気配りのトーク。中間の二流ホテルなら、「…今日は遠くからいらっしゃったのですか」という、型にはまった問いかけだったりします。

さて、写真つき名刺の企画が実施されたことで、お客様とホテルスタッフの直接的なコミュニケーションは目に見えて濃厚になっていきました。それにつれ、従業員たちはしだいにやる気とプライドを取り戻していくのです。

このアイデアはすごい、かなわない、と思いました。

なにしろ、経費はたいしてかからない。けれど、確実にコミュニケーションの場をつくりだす。そして、しっかりと人の心を変えていく。マスコミの取材も期待できる。販売促進だけではなく、お客様はもちろん、社員までも楽しませてしまう企画。

これこそ、ブランディングそのものですね。名刺というホテル・ブランドを刷った紙のツールが、お客様の意識、従業員の意識(=金谷ホテルのポジショニング)を変えていく。

こんな企画発想をひとつの目標にして、アイデアを練っていきたいなと思うのでした。

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