アディダス・オンナ心をつかむスポーツ関連商品・その1

2009.01.26

営業・マーケティング

アディダス・オンナ心をつかむスポーツ関連商品・その1

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

83億円。ランニングウェア市場の規模だ。日経新聞1月24日朝刊・消費面コラム「数字・すうじ」によると、マラソン人気でランニングウェアメーカー出荷額が前年比9.9%増で、スポーツウェア全体の2.9%に比べて大きな伸長だという。

アディダスはその方向性をさらに先鋭化している。「ステラマッカートニー」というブランドだ。「かわいさ需要」が顕在化すると、「そのウェアを着て走りたいから」とランニングを始める層が動き出した。新たなランナーが登場し、新規需要が拡大するというステージに入ったというわけだ。
このブランドのすごいところは、機能素材を使いつつも、機能性を犠牲にしてまでかわいさを追求している点にある。過度にピッタリしていたり、ヒラヒラしていたり、はたまた不要な部品が付いていたり、着方すらわからないようなデザインもある。記録だけを追い求めるシリアスでストイックなアスリートは決して着用しないかもしれない。「かわいくあるために少々の不都合には目をつぶる」というニーズを持ったユーザーをターゲットにしたものだろう。
「美しいレッグラインのためにピンヒールを履く」「セクシーさの 演出にコルセットをつける」のと同じ。外反母趾や肋骨を痛めるリスクを気にするよりも、その一瞬を美しく満足して生きる為に、 犠牲をいとわない層。そういうおしゃれにどん欲、美しさを追究するターゲットセグメントを敏感にキャッチして開発されたのだと考えられる。
「ステラマッカートニー」を再び「3層モデル」で考える。中核の「運動のしやすさ」は既に捨てられている。「運動ができる」程度だろう。その代わり、実体のレイヤーに付随機能であった「かわいさ」が入り、「機能素材」は、あればうれしいという程度の付随機能になっているのだ。

こうした価値構造の転換は、新たなユーザーニーズに対応するためには積極的に行われるべきものである。一時期下火になり、昨今また息を吹き返してきたカラオケボックスという産業。
中核は「歌が歌える」ということ。実体は「個室・防音・カラオケ機材」。付随機能が「飲食の提供」である。しかし、現在流行っているカラオケボックスの利用法は、歌を歌わない。個室・防音という実体を活かしてビジネスマンが会議の場に使用するケースも多い。また、小さな子供連れの主婦グループはさらに個室・防音で子供が騒いでも気にすることなく、飲食の注文ができることから、おしゃべりパーティーを開くという。
中核の歌が歌えるという価値を捨て、実体の防音・個室をフルに活かし、付随機能の飲食の提供の魅力を最大化する。そして、「歌わない客」を積極的に呼び込み対応する。それもこれも、ターゲットをよく見極め、ニーズを徹底的に洗い出した結果である。

マーケティングのキモは「ニーズの深掘り」である。「ニーズ」とは、現状と理想とする状態のギャップであり、そのギャップを埋めるものが、「ウォンツ」。つまり対象物としての商品である。アディダスの、女性のニーズをとらえ、スポーツ愛好家だけでなく、さらにはウェア自体がスポーツ需要を喚起するというその凄さ。「機能ではなくファッション性だ」と見抜いた慧眼には脱帽である。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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