強制代執行に見る20世紀型マニュアルの脆弱性。

2008.10.17

経営・マネジメント

強制代執行に見る20世紀型マニュアルの脆弱性。

原 一真

保育園のイモ畑に対する大阪府の強制代執行から考えた、意思決定のプロセスのあり方についての素朴な疑問。

「(なぜ2週間、工事を延期できなかったのかと言われるが)
2週間工事を延期すれば6億円から7億円の損失が発生する。
むしろ、なぜ2週間早くイモ掘りをやっていただけなかったのか。」

大阪府とその道路工事の計画地に取り込まれた保育園との
確執のひとコマがテレビで報道された際に、大阪府知事の
橋本氏は、マスコミの取材に対してそう答えた。

この工事については、執行停止の申し立てがなされており、
大阪高裁が今月30日に決定を出す予定だったらしい。
しかし、その司法判断を待たなかった理由として、前述の
発言となったわけだ。

また、この農地については、国土交通省が(工事を進めるために)
代理申請者として西日本高速道路株式会社に対する所有権
移転登記を、「本人の了承なく」済ませているらしく、さらには、
その結果、農地に対する免税措置が適用されず、法務省から
2000万円を超える相続税が保育園側に請求されているという。

どうも、さまざまな確執が絡んでいるようで、テレビの画面だけ
から判断はできないが、ひとつ言えることは、なぜ「手続き」で
最終的に物事を解決しようとしたのかだ。

「手続き」は、マニュアル(手順書)だ。
矛盾を解決する伝家の宝刀かもしれないが、それは、
「最低限やらなければならないこと」を定めたものであって、
最上位のルールではない。

つまり、マニュアルは「効率」や「標準」を前提とした経済的指標だ。
そして、モラルは「倫理」や「道理」を前提とした社会的指標であり、
ミッションは、すこし大げさに言えば、経済や社会を敵に回してでも
貫くと言う使命観や人生観だ。その人の哲学と言ってもいい。

ところが、今回の一件は、どうもマニュアルが最上位にあって
論議されているように思えてならない。
橋本知事は、どのようなミッションを以って意思決定したのか。
保育園の運営者は、どのようなミッションを以って望んだのか。
双方の「幸せの基準」のズレを解決する術は、本当に
マニュアルしかなかったのか。

大阪府のヘルメットを被って、園児たちの悲鳴を聞きながら
イモを掘り起こした担当者たちの頭の中には、何があったのか。
泣きながら叫んだ園児たちの胸の中には、何が残ったのか。

マニュアルという安直な指標で、世の中を幸せにできるなんて
思わないほうがいい。
大人たちは、その矛盾や確執をなんとか折り合いをつけて
生きていくのかも知れないが、子供たちの心に残した傷は、
20年後、30年後、社会の傷となって返ってくる。

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