瀬戸内寂聴さんのケータイ小説に見る「プロ根性」

2008.10.06

ライフ・ソーシャル

瀬戸内寂聴さんのケータイ小説に見る「プロ根性」

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

「86歳にしてケータイ小説デビュー」と先月下旬に大きな反響を呼んだ、瀬戸内寂聴氏。一見、無謀とも思われるその挑戦の意義を考察する。

まずはその作品を一読してほしい。ケータイ小説サイト「野いちご」でパソコンからでも閲読ができる。
http://no-ichigo.jp/read/book/book_id/89873

ケータイ小説特有の文章の短さや改行が、パソコンで読むとより目に付くが、すぐに気にならなくなる。それよりも、今まで試しにいくつか読んでみたケータイ小説といわれるものと比べて、まったく違和感がないことに驚く。種明かしをされなければ、これが谷崎潤一郎賞をはじめとして、野間文芸賞と数々の賞に輝いた文学者の手によるものとは思わないだろう。寂聴さんは、それだけ完璧に「なりきって」執筆したのだろう。
<「ケータイ小説については、日本語をだめにするとか、文学ではないとか、多くの批判を耳にしていた」と彼女は言う。「でも、読んでみたら売れている理由が分かった。自分でも書けると思った」>(ロイター・TIメディイアニュース)と各メディアには寂聴さんのコメントが掲載されている。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0809/26/news091.html

しかし、文学者がケータイ小説家になりきって執筆するというのは、生半可な大変さではなかっであろうことは想像に難くない。ケータイ小説の特徴はその文体にある。文体というのは背適当ではないかもしれない。何しろ文体と呼べるようなものが存在していないのが特徴だからだ。風景や心理、情景の描写がない。もしくは極度に少ない。ボキャブラリーも極端に少なく、修辞法も用いられることはない。そうした。意図せぬ極限までのそぎ落としが、独特の空気感を作り上げているのだ。
文学者がその空気感を再現するためには、本能的に用いてしまう文章のテクニックを全て禁則化することになる。これは恐ろしく辛いことではなかっただろうか。

その文学者としてありえないような世界に踏み込むために、寂聴さんは若者に「なりきり」をしている。
話題になった「野いちご」の作者プロフィールも見てみよう。
http://no-ichigo.jp/profile/show/member_id/73865?noichigo=kkjaqr0fa1bmgbfmideseh9sgfah2jv6

【自己紹介】最近ケータイ小説はじめました ドキドキッ ヾ(=^▽^=)ノ

確かに、初めてケータイ小説を書きますという内容も本当であるし、ここでは再現できないが、ケータイ絵文字も多用されたプロフィールは、若い女性そのものではないだろうか。
ちなみに、<【使っている携帯電話】 ピンクのドコモ>は寂聴さんご愛用のピンクのらくらくホンのことらしい。
このように、「なりきれること」は文学者であると同時に「文章のプロ」という「プロ根性」が伝わってくる。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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