カップヌードル・「苦渋の値上げ」で「売り上げ半減」の衝撃

2008.06.19

営業・マーケティング

カップヌードル・「苦渋の値上げ」で「売り上げ半減」の衝撃

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

原材料の高騰によって食料品などが相次ぐ値上げに踏み切った。その中でも売り上げ減少に最も大きく影響したのが日清・カップヌードルだろう。値上げ前比-52%と半減以上。その原因と、同社が値上げに踏み切らざるを得なかった理由を探ってみたい。

■代替品の存在
値上げしても「他に買うものがない」という場合、生活者には渋々許容される場合もあるが、カップ麺は「インスタント麺(袋麺)」という代替品が存在する。確かに「容器が不要で湯を注ぐだけの手軽さ」という製品のコンセプトが消費者に受け、1971年9月18日の新発売当初からインスタント麺とは比較されない価格レンジを保ってきた。しかし、前述の許容されるカスタマーバリューとの乖離を招いたことにより、両者が初めて同じ土俵で比較され、代替可能な存在になってしまったのだ。

■企業努力に対する不満?
「値上げ前にもっと企業努力はできなかったのか」という声も一部から聞こえる。
定番商品が売れ続け、市場に埋没しないためには、バリエーションなどの派生商品を上市し続けることと、一定の情報発信を行うことも必要だ。カップヌードルの場合、様々な味のバリエーションを出し続けている。さらに、昨年・今年とユーザーの意見を取り入れて開発した「ミルクシーフード」や「ミルクカレー」などは大いなる好感を持ってユーザーに迎えられた。
しかし、最近、「環境負荷軽減のため」として容器を紙製に変更し、そのCMをキムタクが行ったり、また、オリジナルアニメ「FREEDOM」を製品広告のために企画・放映したりという目立った動きが、値上げに際しては反発要因として作用した感が否めない。容器変更のタイミングは正しかったのか。派手な広告宣伝費を定番商品にかけるより、価格を据え置く方が先ではないかという意見だ。
製品のコミュニケーション戦略は企業によって意志決定が異なるので一概にその正否を問えるものではないだろう。しかし、こうしたネガティブな反応を抑制するためにも、定番商品であるが故に、値上げに関しても十分な理解を得るような広報活動を事前にもっと徹底しておくべきだったといえるかもしれない。

■「実質値上げ」ではなく「値上げ」せざるを得なかった事情
先の日経の調査で目をひくのは「シャウエッセン」だ。内容量を減らした実質値上げなのだが、店頭価格277円から271円と、見かけ上6円の値下がりによって、売り上げが9%上昇している。食品などの日用品は「販売価格の上昇(下落)が販売量の下落(上昇)に大きく影響する」という、いわゆる「価格弾力性が高い」製品の代表だ。それ故、見かけ上の価格に反応して購入した消費者も多かったということだろう。
しかし、カップヌードルの場合、実質値上げには踏み切れない事情がある。単純に量を減らしただけなら「カップヌードルミニ」という商品が存在する。麺の量だけを減らした場合、麺の量を減らしてカップヌードルの具材を流用した、麺が少なく汁を主に食べる「スープヌードル」という商品も存在する。前述の定番商品が売れ続けるための工夫である「派生商品」が思わぬところで影響してしまったのだ。しかも「スープヌードル」は「安いがボリューム感に欠ける」とあまり評判がよくない。それ故、内容量減による実質値下げという手段を安易に選択することができなかったのだと推察できる。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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