嘘: 変革を損なう甘い誘惑

2008.05.14

ライフ・ソーシャル

嘘: 変革を損なう甘い誘惑

猪熊 篤史

現実と目標、実態と理想を明確に区別することによって、正しい努力や創意工夫が生まれる。嘘は、努力や創意工夫の機会を奪ってしまう。嘘は、自己の弱さや甘えを表し、他者を侮辱するものである。

道徳の授業のようだが、嘘は良くない。嘘をつけることを一種のビジネス・スキルだと考えている人もいるようだが嘘は良くないだろう。

医療、あるいは、法律の見解がどうなっているか知らないが、末期ガンの患者に対して「治る」というのは、「絶対」というモノゴトがない世界において「嘘」ではないだろう。「ガンではない」と言うのは「嘘」であり、言う側も言われる側も心がはれず、日常的な嘘と同様に本来良くない行為なのだろう。しかし、このような嘘が全くの善意で発せられる場合、嘘をとがめることは困難だろう。

これは、極端な例だが、ビジネスにおける嘘について考えたい。

原材料費が1,000円の製品を1万円で売るのは嘘だろか?販売価格の設定は難しい。原材料費が1,000円でも、製品を作るための作業員の人件費、製造用機械の費用(減価償却費)、管理部門の人件費、販売するための広告費などを考慮すれば、1万円で販売しても損失になることがある。また、忘れられがちだが、初期費用を負担した人々、つまり、製品が売れて資金が回収出来る保証がない中で、当初の資金を拠出した人々に対する配当や利息などの報酬を考えると、原材料費1,000円の製品をいくらで売ったら良いかはさらに難しい問題になる。

一つ解答は「売れる値段」、「顧客が支払ってくれる価格」で売るということになるだろう。

余談だが、売れる価格とは、原材料の価格や諸費用に適切な利幅をのせたもの、ブランドイメージや信用も含む広い意味で品質を考慮した時に競合製品の価格や代替の費用と見合うもの、最低水準の販売でも原価を割らないもの、買い手の評価に合う適度なものなど、製品やサービスによって異なるが、全く見当もつかないというものではない。

費用と販売価格の差である利益は「嘘」、あるいは、「悪」だととらえる人がいる。「営利活動は悪、非営利活動は善」のように考える人もいる。いわゆる「営利活動」があって初めて「非営利活動」が成り立つ側面があるだろう。環境保護の活動も、企業が利益を上げて、税金を支払って初めて公共事業の予算が成り立つ。それでも、営利活動の方が、非営利活動より重要なのかと言えば必ずしもそうではない。医療、教育、警察、その他の行政など、非営利の活動なしに営利活動が維持できない面もある。しかし、非営利の活動が営利活動に資金を供給しているとは考えたくない。

製品やサービスが正しく説明され、顧客に正しく理解される時、製品やサービスの価格は、費用または顧客の評価、あるいは、競合製品の価格や代替の可能性を基にある程度、合理的に決まる。そこに「嘘」はないだろう。

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