サービスサイエンティストとして、サービスの本質的な理論を提唱し続ける松井さんとパナソニックで実際にCX・CSに向き合い、お客様へのサービスを提供されている今村さんをお迎えしてお話を伺っていきたいと思います。 (聞き手:猪口真)

松井 今村さんが冒頭で話してくださったように、サービスが俗人的になっていたり、事業の中でコストと捉えられていたり、サービスでは事業は伸ばせないと考えている企業も多い。いざ取り組もうとしても、モノをつくるための設計図はあっても、サービスの設計ができていない。そこが課題なんです。今村さんがサービスサイエンスに触れた時の「サービスを科学的できたら面白い」という感想が、そのままこの本の魅力になっています。

今村 ショールームでのリアルな体験がすごく響いたのだと思います。
猪口 ショールームにいらっしゃった時も、お客様が求めるストーリーや戦略の設計がすでにできていたのでしょうね。
今村 お客様が何を求めているのか、ご家族の中で誰の発言がキーになるのかといったトレーニングは、個人レベルでかなりしていたんです。それを科学すれば武器になると感じていました。「あなたが提案してくれるから買う」というコメントもたくさんいただきました。東京のショールームに静岡からわざわざお越しいただいいたお客様が、建てた家を見せるために新幹線のチケットを送ってくださったこともあります。サービスが差別化になっていると体感したことが、私の原体験としてあるのです。
松井 素晴らしいですね。そういう意味では、設計図のかたちに言語化、可視化できるかどうかがとても重要です。それこそが個人の経験、知恵、工夫を組織の力に変える鍵だと思っています。これから「カジ育」をさらに強化していく中で、壁にぶつかったりいろいろなアイディアが出てきたりした時、期待の的の設計図がないと、どれを採用し、どこをどう修正すべきかわからなくなってしまいます。けっきょく個人の思いや経験値による水かけ論になってしまうと思うんです。だからこそ、いったんサービスの価値を表現する設計図を描き、それを見ながら議論できるようになることが、これから先を考える上でとても重要です。どの事前期待に応えるかによって、サービスの価値はガラッと変わります。今回の本は、「事前期待を起点に、どうやってサービスを設計するか」に取り組む内容となっています。その代表事例がパナソニックさんです。
今村 正直にいうと、最初は期待と事前期待の違いがよくわかりませんでした。的に当てるのか、的は変わらないのか、期待は超えるものなのかなど、たくさんの疑問が沸いてきて、それを松井先生に壁打ちさせていただきながら、悩みながら話を重ねるうちにだんだんと理解していきました。そのみんなの悩みがこの一冊に集約されています。読んでいただければ、ああ、そういうことかと腑に落ちて、そして自分で考えて、体験していただくことで本物になると思います。
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