サービスサイエンティストとして、サービスの本質的な理論を提唱し続ける松井さんとパナソニックで実際にCX・CSに向き合い、お客様へのサービスを提供されている今村さんをお迎えしてお話を伺っていきたいと思います。 (聞き手:猪口真)
松下幸之助は当初、「私たちはしっかりしたモノをつくり、心は宗教などに担ってもらうことで社会全体として物心となる」と考えていたそうです。しかしその後、昭和35年頃にPHP研究所を立ち上げたのは、「自分たちでも心というものを研究し、取り扱っていかなければならない」と考えが変わったからだそうです。そういった経緯もあり、モノと心の両方が揃わないといけないと考えています。
猪口 当初から「物心一如の繁栄」を掲げていたというのは、まさにサービスの精神そのものです。
松井 モノが充足して差がつかなくなってきた時、市場や顧客がサービスの価値を求めるようになってきたという話と、この物心一如はつながっていると思います。製造業のサービス化は、もちろん事業の成長や持続のために必要な取り組みですが、どうしても儲けのためと捉えられたり、「モノづくりが花型だけど、これからはサービスもついでに頑張ろう」というスタンスの企業も少なくありません。しかしこうした創業者の言葉に立ち返ってみると、パナソニックが家族の関係性を育み、心を豊かにしていく方向性のサービスに乗り出すことは必然だと感じます。むしろそこに乗り出さなければ、モノや機能を開発して届けるだけでは、パナソニックの使命は遂げられません。サービスの価値を生み出すことでようやく物心一如のコンセプトがコンプリートするのです。次の100年で、パナソニックがサービス化のステージに一歩踏み出す必然性があると感じています。
猪口 サービスというと、とかくマーケティング的、あるいはプロモーション的なものと捉えられがちですが、本来は経営戦略もそのものです。そこはどんな企業でも、根本から発想を変えていく必要があるでしょうね。
今村 今はモノを売ることが起点になることが多いですが、元々はくらしの中の課題が起点にあったはずです。AIアシスタントはまさにその原点です。モノを買いたいのではなく、こういうくらしをしたいからこのアシスタント付きがほしいというように、発想が逆転し始めていると感じます。まさに原点回帰です。ものを上手く使ってもらうためのおまけのサービスではなく、お客様の選び方がすでに「これをやりたいから」というコト起点に変わり始めている。そこが一番面白いですね。
松井 サービス付き家電を買っているのではなく、家電付きサービスを買っている感じですね。
猪口 そういう意味では、企業はサービスの捉え方を変えていかないといけませんね。パナソニックさんも長年かけて取り組まれてきたわけですから、改めてきちんと向き合う必要があると思います。松井さんが出された『事前期待 ~リ・プロデュースから始める顧客価値の再現性と進化の設計図~』は、まさにそうした企業にぴったりの一冊ですね。
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