全体的アプローチの勝利:ジュンク堂書店

2007.05.01

経営・マネジメント

全体的アプローチの勝利:ジュンク堂書店

松尾 順
有限会社シャープマインド マーケティング・プロデューサー

「何でもありそうで、実際何でもある」 という点が「楽天の強み」とおっしゃっていたのは、 ECコンサルタントの故三石玲子氏でした。

同様のことは、「ヤフーオークション」についても言えます。
あそこには、楽天以上に見つからないものはない。
予想もしない奇妙なものまで出品してありますよね。(笑)

要するに、楽天やヤフーオークションは、
ユーザーの期待感を裏切らない品揃えを達成したことによって
業界ダントツトップの座を手に入れ、このことが、
さらに2位以下との差を広げることにもつながっています。
(Googleの登場によって、この優位性が多少揺らいではいますが・・・)

さて、リアルな世界で、「何でもありそうで、実際何でもある」を
実現している本屋が、

「ジュンク堂書店」

です。

他の書店が、販売点数が少ない専門書の取り扱いを大きく縮小する中、
ジュンク堂書店だけが、年に1回しか売れないような本も取り揃えるという
「逆張り」の戦略を取ってきたのです。

POSシステムの普及によって一般的となった「単品管理」
(アイテム毎の売上・利益、効率を重視)の考え方に立てば、
めったに売れない商品を在庫として持っておくのは販売効率の低下に
つながります。

したがって、こうした死に筋商品は返品し、
売れ筋商品だけに在庫を絞り込むのが論理的には正しい戦略です。

しかし、ジュンク堂の場合、販売効率を低下させることよりも、顧客の

「欲しい本がみつかってうれしい」

という気持ちを優先してきました。

その結果、ジュンク堂ファン、つまりロイヤル顧客をたくさん生み出した。
しかも、1来店あたりの客単価を3500円(一般書店は同1000円程度)と、
他店の3倍以上に引き上げることによって、業績を伸ばすことに成功した
というわけです。

私は若いころ、まだ普及が始まったばかりのPOSデータの分析に
関わっていたのですが、アイテムベースで売れ筋、死に筋を把握し、
また売上、利益、効率などを個別に科学的に分析する単品管理には
大きな意義を感じていました。

しかし、一方で、売れ筋だけに絞り込んだお店には、
選ぶ楽しみ、発見の喜びがなく、消費者の購買意欲を低下させる
という事実にも気づいていました。

客観的なデータに基づく行き過ぎた「分析的・還元論的アプローチ」は、
ビジネスをだめにする場合があるということです。

典型的な「合成の誤謬」ってやつでしょう。

ジュンク堂の場合、不良在庫(つまり返品処理商品)が発生しても、
売り場担当者などが責任をとらされる事はないそうですが、
目先の短期的な数字ではなく、

「顧客にとって魅力のある店とはどんな店なのか」

を追求する「包括的・全体論的アプローチ」が勝利につながった
好事例だと言えますよね。

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松尾 順

有限会社シャープマインド マーケティング・プロデューサー

これからは、顧客心理の的確な分析・解釈がビジネス成功の鍵を握る。 こう考えて、心理学とマーケティングの融合を目指す「マインドリーディング」を提唱しています。

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