旭山動物園(4)飼育係兼リサーチャー

2007.04.25

経営・マネジメント

旭山動物園(4)飼育係兼リサーチャー

松尾 順
有限会社シャープマインド マーケティング・プロデューサー

1967年(昭和42年)に開園した旭山動物園の来園者数は、 1983年(昭和58年)の59万7千人をピークに減少し始めます。 ジェットコースターなどの大型遊具施設を導入して、 一部を遊園地化したのは、1991年(昭和63年)のことでした。

同年、入園者は前年の46万人から2万5千人増の48万5千人に。
ところが、翌年には45万2千人へと逆戻り。

昭和から平成になってからも、減少に歯止めがかかりません。

それでも、当時の旭川市は動物園の改善には興味を示さず、
予算がまったくつかない年が続きました。

しかし、旭山動物園の人たちは、

「カネがないから何もできない」

と考えるのではなく、

「カネがなくてもできることがある」

と頭を切り替えたのです。

そこで、まず次の3つの戦略を立てました。

・市民を味方につける
・マスコミを味方につける
・飼育係が打って出る

この中で、後の奇跡的な復活の布石として最も意義があったのは

「飼育係が打って出る」

ことだったようです。

具体的には、本来裏方の飼育係自らが、来園者に対して動物たち
についての説明をする「ワンポイントレッスン」をやることに
したのです。

ただ、そもそも人と話すのが苦手だから動物相手の仕事を選んだ
という飼育係もいたそうですから、当初は皆やりたがらず、
「やってみよう」と決断させるための説得も半年がかりでした。

でも実際始めてみるとさまざまな気づきや効果があったのです。

たとえば、

「オランウータンの握力は300キロ以上もありまして・・・」

などと教科書的な話をしてもお客さんは喜ばない。

「モモ(オランウータンの名前)はとても甘えん坊で、
 昨日飼育していたら、こんなことがあったんですよ」

とか、

「あそこのトラはね、昨日仲間と喧嘩しましてね、
 ほら、あそこに傷跡があるのわかるでしょう?」

などと、目の前にいる「個体」の話をしてあげると喜ぶと
いうこと。

また、それぞれの動物たちにはまだまだ知られていない
習性や特徴があり、それは子供だけでなく大人が聞いても
興味深いものであること。

こうして、飼育係は表舞台に出て来園者と対話することを通じ、
彼らが動物園に何を望んでいるのか、あるいは、どんな話が
受けるのか、受けないのかといったことを肌で知ることが
できるようになりました。

要するに、飼育係が「リサーチャー」になったわけですね。

そして、ワンポイントレッスンで収集できた来園者のニーズは、
新施設づくりに十分に反映されてきたということなのです。

なお、ワンポイントレッスンは、市場調査的な効果だけでなく、
旭山動物園のファンを作ることにも貢献してきています。

1994年(平成7年)にエキノコックス症によって、
同園のゴリラやキツネザルが死亡をしたことをきっかけに
休園を余儀なくされた時、運営体制に批判が集まる最中でも
陰ながら応援してくれる市民がいたそうです。

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松尾 順

有限会社シャープマインド マーケティング・プロデューサー

これからは、顧客心理の的確な分析・解釈がビジネス成功の鍵を握る。 こう考えて、心理学とマーケティングの融合を目指す「マインドリーディング」を提唱しています。

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