「成功のキャリア観」から「健やかさのキャリア観」へ

画像: Career Portrait Consulting

2018.12.07

組織・人材

「成功のキャリア観」から「健やかさのキャリア観」へ

村山 昇
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

振り子の一端に「成功のキャリア」があり、また別の一端に「自己防衛のキャリア」が生じる。この2つの極の間の適当なところで折り合いをつけていくというのではなく、両者を止揚したところに「健やかさのキャリア」があります。この「健やかさのキャリア」こそ、次代の大切なキャリア観として育まれるべきものではないでしょうか。

人生100年時代を迎え、私たちが長きキャリアのマラソンを走っていくために大事なことは心身の健康です。「成功のキャリア」を目指すことは、ややもすると、心身を痛めつけながら戦うことにもなりかねません。20代や30代前半までなら、成功へのあこがれや、旺盛な自己承認欲求に支えられてがんばることもできますが、30代後半からはそれがしんどくなってきます。実際、それで心身を病む人や、一見栄光を手にしている人でも途中で燃え尽きてしまってつらい40代、50代を送る人もいます。

また、健康が大事だからといって、「自己防衛のキャリア」に閉じこもってみても、心身は鍛えられることなく、ぜい弱なまま歳を重ねることになります。中高年になって、いざ何か重い試練が降りかかったらそれを乗り越えていけるでしょうか。

「健やかさのキャリア」は、“well-being”の状態を目指します。自分という存在をよく(良く・善く・好く)開き、よく保っていこうという態度です。

すなわち、仕事生活において、

 ●「在り方」にまなざしを置き、そこから理想像を描いている

 ●その実現に向かう負荷やリスクを悠然と受け入れられる

 ●働く意識を他者・社会に開いていて、共創的・貢献的な「やりがい」という内発の力を湧かせている
 ●その結果、大きな健康を得て、強い安定の状態にある


「健やか」という価値は、普通すぎて面白くないと感じる方もいるかもしれません。しかし、それはひとつの強さであり、在り方のもとに生き生きとすることであり、実現はそう簡単ではありません。むしろ経済的尺度によって単純に勝ち負けを決める「成功のキャリア」よりもはるかに複雑で奥が深いものといえます。

心身の健やかさという観点で「働くこと・生きること」をながめるとき、そこには3つのフェーズがあるように思います。

まず大前提として「身体・生活の維持」があります。そのためにお金がいる。だから私たちは稼ぐために働く。これがフェーズⅠです。この地球上にはこのフェーズⅠを維持するだけでも大変な人たちがいます。発展途上国や紛争地域に生まれた人びとは、何かしら仕事を見つけ、食事にありつき、命を1日1日持たせることが人生目的になっています。

しかし、平成ニッポンの世に生まれた私たちは、幸運にも、少しがんばることでフェーズⅠは満たすことができます。そこで目指すところは、「もっと持ちたい」「快適でいたい」というフェーズⅡの活動です。たしかにこのフェーズでの生活は穏やかであり、健やかだといえます。しかし、この状態は言ってみれば「小さな健康」でしかありません。物質的な所有に支えられた生活、快に寄りかかる心は、実はぜい弱で安定しません。

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村山 昇

キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。

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