社会インフラを考える (8) 公共事業頼りの景気維持は副作用が大きい

画像: Elliott Brown

2014.09.11

経営・マネジメント

社会インフラを考える (8) 公共事業頼りの景気維持は副作用が大きい

日沖 博道
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

アベノミクス第二の矢、公共事業による景気刺激政策は、費用対効果でみると既に正当化できないばかりか、民間投資の「クラウディングアウト」を生んでいる。公共投資はむしろ抑制し、民間国内投資を促す「第三の矢」への重点シフトを急ぐべき。

第二次安倍内閣への支持率が跳ね上がって首相の御機嫌はよいのだろうが、アベノミクスと称される経済政策には誤算が多々生じてきている。

第一の矢、大胆な金融緩和がもたらした「一層の金利低下」は確かに、株価持ち直しにより富裕層の懐を潤わせ、景気転換のきっかけをもたらした。でも直接の目標であった「円安誘導」には成功しながらも、本来の狙いだったはずの「輸出主導の景気盛り上げ」にはつながっていない。長年の円高に懲りた大手輸出企業が生産施設を海外に移転し終わったタイミングでの円安転換だったため、輸出数量が意外なほど伸びないためだ。

反面、その円安は原燃料の輸入価格急騰を確実に生じさせ、日本経済に多大な負荷をもたらしていることは周知の通りだ。

第二の矢、公共インフラ建設投資による景気刺激政策はもっと期待外れだ。確かに当初は、第一の矢がもたらした資産効果と相まって、景気回復期待を高めた。「景気は気から」と言うが、「この先、景気がよくなりそう」と大衆と企業の心理を転換させた貢献は高かったと思う。

しかしその後、実態としての景気刺激のカンフル効果は、次世代への財政負担押し付けを正当化できるほど大きくならないままだ。むしろ今では逆に、人手不足を通じての、民間投資に対するクラウディングアウト(押しのけ)効果という負の副作用が強くなっているのが実態だ。

少々説明が必要なようだ。

そもそもなぜ公共インフラ建設投資が政府による景気刺激政策の代表的事業となっているのだろう。これには経済学でいうところの「乗数効果」という概念が鍵となる。

政府の公共支出額が次々と人々の懐具合を刺激し、最終的にどれだけの額の需要創出=人々にとっての総所得をもたらすかの増幅度合いを指している。この需要刺激効果浸透の過程で、仕事を受けた人々が収入のうちなるべく多くの割合を早めに支出するほど、乗数効果は高くなる。

簡単に言うと、「宵越しの金を持たずに、ぱーっと使う」江戸っ子ばかりだと乗数効果は非常に高く、「世の中の金回り」=景気を一挙によくすることができるのだ。

公共インフラ建設に関わる肉体労働者の多くは、もらった給金の多くを飲み食いなどですぐに散財してくれる、その意味で理想的な労働者だった。そしてその金を受け取る飲食業や旅館業の人たちも、すぐに仕入れに回してくれる。彼らから金を受け取る漁師や農家の人たちも同様だった。

特に経済的に余裕のない人々ほど、飲食はもちろん、衣服や家屋の修繕など先送りしていた支出にすぐ回してくれるので(貯蓄に回す余裕がないので)、公共投資の金の行き先として望ましいといえる。少なくとも高度成長期にはこの歯車が絶妙に速く廻り、世の中が潤ったのだ。インフラ建設投資が公共投資の模範的事業とされた所以だ。

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日沖 博道

パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

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