農協改革にみる組織変革の攻防

画像: Archives New Zealand

2014.06.11

組織・人材

農協改革にみる組織変革の攻防

日沖 博道
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

大胆な組織変革案の撤回に潜む改革側のシナリオの裏を読む。これは政治ショーの楽しみ方でもあるし、企業での改革シナリオ作りの参考にもなる。

政府・与党が、農協改革において規制改革会議が打ち出していた「全中の廃止」案を撤回する方針を固めたようだ。

政府の成長戦略の柱の一つとして打ち出した農協・農業改革の目玉だったが、公明党の了承を得た自民党案では、全中(全国農業協同組合中央会)を廃止することは見送られ、各地の農協に対する全中の指導・監査権限については具体的な変更は盛られなかった、との報道が昨日あった。

規制改革会議が「全中の廃止」という大胆なテーマを含む改革案を5月に打ち出したときには、世間の反応は概ね2つに分かれた。

「ここまで思い切ったことを掲げるからには政府は農協改革に本気だし、政高党低の力関係から可能だと考えているのだろう」というのと、「JAグループが猛反発するのは目に見えているから、自民党政権にはどうせできやしない」というものだった。実際、JAグループとの利害関係が少なからずある、地方に住む小生の友人数名の意見は真っ二つに分かれていた。

「全中の廃止」が仮に実現すると、2つの大きな効果が見込まれた。

まず政治的には、大きな圧力団体であるJAグループの政治的司令塔がなくなるため、政府が目論む農業改革がスムーズに進めやすくなると期待された。特にコメなどの価格引き下げを進めるには必須とまでいう人もいた。

そして経済的には、JAグループの巨大なオーバーヘッドが縮小することで、個別農協からの「上納金」(賦課金)が減り、JAの供給する肥料や農薬などの割高感が抑制されると期待された。つまりニッポン農業の最大の欠点である高コスト体質の改善にかなり貢献すると考えられたわけだ。

しかし予想通りというか、この案は全中の猛反発を受けて、「選挙が持たない」と慌てた自民党の農林族の巻き返しにより撤回された格好だ。

これにより農協改革全体が骨抜きになるのではないかと心配する向きもある。全中廃止がなくなった今、全中の指導権限を縮小するのか、賦課金制度を透明化し抑制できるのかが、この後の農協改革の焦点になるとみられている。

しかし小生はこの一連の農協改革の政治的攻防を見ていて、少し違った見方をしている。政府側は反発の矛先を組織改革だけに向けさせて、他の改革案を実質的に飲ませることにまんまと成功したのではないか、と考える。

実際、規制改革会議が挙げた改革案のうち、「農業生産法人への企業の出資制限を25%以下から50%未満に拡大する」案については自民党も了承した。これは結構重要なもので、民間企業が農業分野に進出することを後押しし、将来は50%超に緩和するためのステップともなりそうだ。

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日沖 博道

パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

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