政府系企業といえども信頼してはいけない

2010.05.11

経営・マネジメント

政府系企業といえども信頼してはいけない

中ノ森 清訓
株式会社 戦略調達 代表取締役社長

日本政府の100%出資会社が、あるPCB汚染機器の処理料金単価をこれまでの16倍に引き上げました。 今回は、こうしたケースが調達・購買の現場ではどこでも起こりうることであり、こうした事態に巻き込まれた時にできること、そもそも、こうした事態に巻き込まれないようにする方法について見ていきます。

日本政府の100%出資会社の日本環境安全事業(JESCO)は、PCB(ポリ塩化ビフェニール)に汚染された安定器(蛍光灯に使われる)の処理料金単価を、2010年1月より1,810円/kgから29,400円/kgとこれまでの16倍に引き上げました。

同社によると、この背景には、これまでの処理方法では処理が上手くいかず、新たな処理方法に切り替えたことによるものとのことです。

問題は、PCBの処理施設は全国5ヵ所にありますが、いずれもJESCOが所有し、事実上、同社がPCB処理を独占する状況にあること、また、これから製造するものではなく、既に発生しているものの廃棄処理の話なので、PCBに汚染された安定器を抱える事業者にとっては、使用量の削減や素材の代替といった代替手段が取れないという点です。

この単価変更による処理費用の増加は、国内合計では3000億円程度、特に、PCBの毒性が判明する1972年以前に全国展開をしていた企業の負担が大きく、NTTグループが300億円超、JR東日本で100億から200億円、パナソニックで80億円弱と計算されます。(出所:日本経済新聞 2010年5月3日 11面の記事より、弊社にて推計)

このような状況におかれると、取りうる手段としては、とりあえず様子見で在庫費用を覚悟で時間稼ぎを図るか、あきらめて損失をかぶるか、ウルトラCでJESCOの経営権を握るかの三つ位しか策はないのではないでしょうか?

我われ調達・購買担当者がこのケースから改めて学ぶことは、このような状況に追い込まれないようにするということに最善の注意を払う、たとえ政府系企業であっても1社の取引先に首根っこをつかまれないようにするということです。

最善の注意を払っても、今回のケースのように、普及した後に有害物質が含まれていることが発見され、処理が法制化され国に独占されるということが起こります。注意してさえそうなのですから、注意を払わなければ、いかに簡単に自社がそのような状況に追い込まれるか想像するのは容易です。

今回のケースはレアケースと思われるかもしれません。しかし、鉄鉱石ではヴァーレ、BHPビリトン、リオ・ティントが寡占化し、日本の購買力が減少していることから、新日鉄や総合商社ですら、交渉の土俵に立てません。

こうした大きな話だけでなく、個々の企業でみると、「あの社長は信頼できる」「あの担当者はよくしてくれる」と取引先がよくしてくれることを良いことに、取引先に任せっきりにしてしまい、その取引先がいないと業務が回らないケース、つまり、実は取引先に首根っこをつかまれているケースは幾らでもあります。

しかし、取引先の担当者は先方の都合で異動します。今ではM&Aが盛んになっていますので、社長が信頼できた会社でも、資本が変わることによって、経営スタイルががらっと変わることは日常茶飯時です。

たとえ、相手が政府系企業であっても、「もし、その企業が不当な値上げを要求してきたら、どのように対抗するか。」の問いを考えつつ、日々、取引をする大切さを、今回のケースは教えてくれています。

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中ノ森 清訓

株式会社 戦略調達 代表取締役社長

コスト削減・経費削減のヒントを提供する「週刊 戦略調達」、環境負荷を低減する商品・サービスの開発事例や、それを支えるサプライヤなどを紹介する「環境調達.com」を中心に、開発・調達・購買業務とそのマネジメントのあり方について情報提供していきます

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