本当にあった泣ける話

2013.03.26

経営・マネジメント

本当にあった泣ける話

坂口 孝則
未来調達研究所株式会社 取締役

暇だったら読んでください。調達・購買に関わらないひともぜひ。

そのバイヤーは、仕事のすべてに熱中できない男性だった。

日々の納期フォローは、元は生産管理のデタラメさからきたものだ。それをなぜ俺が交渉せねばならないのだ。価格交渉だってつまらない。なんで自分が決定したわけでもない製品の交渉をしなければいけないんだ。毎年のコスト低減だって……。この仕事の不条理さにいつもイヤになっていた。

もちろん、そんな仕事に熱中できるわけはない。

彼は、上司との定期面談のときに、今の仕事に不満を感じていることと、「辞めることも考えています」ということを伝えた。上司はなんとか説得を試みたものの、熱意のないその部下を説得することをやめてしまった。

「私はこんなことをするために会社にいるんじゃないと思うんです」。それが彼の口癖だった。毎日流れてくる伝票。それを画面に転記しては、サプライヤーのコードを入力する。見積りが届けば、適当に交渉して、その金額をシステムに入力する。どこにも感動のない仕事。そして単調な毎日。そのすべてが、「こんなことをするために会社にいるんじゃない」と思わせる源になっていた。

もちろん、自分に能力がないことはわかっていた。何年か、この調達・購買という仕事を経験したものの、スキルがないこともわかっている。今以上の年収で転職することも難しいだろう。だから、ほんとうならば、もうちょっと頑張りたい。しかし、どうやっても、この「こんなことをするために会社にいるんじゃない」という思いが頭をよぎってしまう。

あるときのことだった。

彼が大学時代の友人たちと酒を飲んだときのことだ。

友人の何人かはすでに会社を辞め、新たな職場に移っていた。すると、その新しい職場はなかなか愉しいという。「オマエも今の会社辞めちゃえよ」。その言葉は魅力的だった。もちろん、移ったからといいって幸せになるかどうかはわからない。でも、わかっているのは、今の調達・購買の仕事はつまらないということだ。

彼は、上司に辞めることを伝えようと決心し、会社の寮の部屋の整理を始めた。

すると――。彼はあるものを発見する。色あせたコピー用紙に書かれた自分の字の書類だった。「入社後の抱負」とその書類には書かれていた。どうも、自分が数年前に入社時に書いたものらしい。入社時のオリエンテーションで書かされたものだ。

彼は少し笑ってしまう。ああ、自分もこんなことを考えていたのか、と懐かしくなった。それは、文字通り「書かされた」ものだった。しかし、そのすべてが嘘ではない。その当時はほんとうにそのようなことを考えていたに違いない。

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坂口 孝則

未来調達研究所株式会社 取締役

大阪大学卒業後、電機メーカー、自動車メーカーで調達・購買業務に従事。未来調達研究所株式会社取締役。コスト削減のコンサルタント。『牛丼一杯の儲けは9円』(幻冬舎新書)など著書22作。

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