観念が人をつくる

2011.09.16

仕事術

観念が人をつくる

村山 昇
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

私たちは、日々遭遇する出来事や事実、体験によって自己がつくられていくと思っている。しかし実際自己をつくっているのは、出来事や事実をどうとらえ、どう心を構え、どう体験していくかを根っこで決めている「観念」である。降りかかってくる出来事を100%コントロールすることはできないが、観念をコントロールすることは可能である。

 アルバート・エリスは、このABC理論(より正確には「ABCDE理論」)を基に「論理療法」を創始しました。そのエッセンスは、「起こってしまった出来事を変えることはできないが、その解釈を変えることで人生を好い方向に進めていくことはできる」というものです。

◆境遇の下部(しもべ)になるか・境遇を土台にするか
 私個人のことを言えば、私は子どものころから身体が丈夫ではありません。いわゆる虚弱体質の部類で、ともかく飲食するにも、活動するにも無理がききません。すぐにお腹をこわす、すぐに風邪を引いて熱を出す、とそんなようなありさまでした。大人になってからは何とか毎日仕事生活を送れるような状態にはなりましたが、それでも、私は常に、痩せすぎでひ弱な身体に神経をつかう日々を送っています。

 私は小学校のころから自分のそうした身体の境遇に落胆していました。母も同じように痩せて身体が弱いほうだったので、「あぁ、こんな親のもとに生まれた自分に運がないのだ」と誰を責めるでもなく、ただ、自分の身体に落胆していました。
 小学校5,6年のころだったでしょうか、そんなときに母は、「健康だと健康の有難みがわからへんでしょ。病弱な人はその有難みがわかる。これはすごいことと違う?」「弱い人は弱い人の気持ちがわかる。だから、やさしい人になれる」と言ってくれた。その言葉を聞いて、私は、「そうか、弱いってことは、その分、みんなが感じられんことを余計に感じられるんや」ということに気がついたのです。───今から振り返ると、まさに私自身がABC理論で論理療法のきっかけを得た瞬間でした。

 つまり、「虚弱な身体に生まれた」という出来事〈A〉に対し、「虚弱な母のもとに生まれた自分に運がないのだ」という受け止め方〈B〉が、自分を落胆〈C〉に導いていたのです。〈A〉→〈B〉→〈C〉という因果関係です。〈A〉→〈C〉ではありません。
 そこで私は母の言葉によって、〈B〉を変えることができた。「弱いからこそ、多くを感じられる」という受け止め方〈B〉になった結果、「虚弱だったとしても、強くやさしく生きていこう」という心持ち〈C〉になったのです。心持ちが180度変わったわけですが、それが起きた前も後も、「虚弱な身体に生まれた」という事実〈A〉はなんら変わっていません。

◆私たちは各々の解釈でとらえた世界を生きている
 私が本記事「観念が人をつくる」で言いたいのはこのことです。人は生きていく過程で、それこそ無数の出来事や事実に遭遇します。それら出来事や事実を、どうとらえ、どう評価するか、そしてどう体験するかはすべて観念という名の“フィルター”(ろ過器)の影響を受けます。「世の中に事実はない。あるのは解釈だけだ」という言い回しがありますが、まさに私たち一人一人は、各々の解釈でとらえた世界を生きているのです。

次のページ◆いま個人と社会に必要なのは「健やかな観念」

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村山 昇

キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。

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