「働くことを切り拓く力」の脆弱化を考える 〈下〉

2011.01.11

組織・人材

「働くことを切り拓く力」の脆弱化を考える 〈下〉

村山 昇
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

「働くことを切り拓く力」について、キャリア形成の5つの要素「CROSS-ing」モデルを用いて説明する。

 「自分の居場所はここじゃない」とすぐに逃げ出す人はキャリアを拓けない。そもそも自分に100%フィットする仕事環境などないと心得るべきなのだ。そしてまた、自分の潜在能力や本当の適性はどこにあるか本人も気づいていないときは意外に多い。環境・状況に応じて、能力を変形させる、あるいは自分を変える、逆に、環境や状況を好ましいように変えていく―――そういった意識を上司も組織も、大学の就職支援カウンセラーも正面から伝えていかねばならない。

〈2〉ロールモデル〈ROLE MODEL〉の形成要素
 私たちは力強くキャリアを進んでいくために方向性が要る。方向性を持つことの最初のきっかけは「あの人のような仕事がしたい」という模範やあこがれを持つことである。「学ぶ(まなぶ)」という語は、「真似る(まねる)」から来ていると言われるとおり、人を真似ようとすることから方向性が出てくるのである。
 強くキャリアを歩んでいる人は、必ずどこかの時点で模範やあこがれの人物に出会っていて、その人物の働き方・働き様・生き様から理想のイメージをつくり出している。そしてその理想イメージが十分大きく堅固になったとき、それは「夢・志」と呼ぶべきものになる。
 キャリア形成の力が弱い人は、他の人間の働き様への関心が薄く、そこから何か自分なりの理想イメージを引き出す力も弱い。漫然とイメージ無しに働き過ごしている。せいぜいあこがれるとすれば、「○○の仕事はラクに儲かっていいなぁ」くらいだ。

 「働くことを切り拓く力」を養うために大人ができることは何か。―――それはロールモデルをたくさん見せることだ。自らの夢や信念に生きた姿をどんどん後進世代に語っていくことだ。ロールモデルならそこかしこにある。図書館には過去の偉人たちの自伝がいくらでも並べてある。
 大人になってもう一度、野口英世やキュリー夫人、二宮尊徳など学級文庫にラインナップされた人たちの本を読んでみていただきたい。子供のころとはまったく違った気づきがあるだろう。そうした気づきを大人は子供たちにどんどん語るべきだ。また、そうした偉人でなくとも、テレビのドキュメンタリー番組では、一つの仕事に献身するさまさまな働く姿が紹介されている。新聞や雑誌にもそうした記事はたくさんある。難しい話はいらない。―――
 「すごいねぇ、こういう生き方」、
 「お父さん(お母さん)は、こんな生き方が美しいと思うな」、
 「信念を持ち続けることが大事なんだね」、
 「こういう状態になったら、あなたならどうしたかな?」
 ……そんな語りかけでよいと思う。親や学校の先生がこうした語りかけをすることこそ、最良のキャリア教育であると思う。働き方、働き様、生き様は、結局のところ、人の生きる姿からしか学べないのだ。

次のページ『語り継ぎたいこと~チャレンジの50年』

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村山 昇

キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。

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