ライフワークとは「醸造する仕事」である

2010.12.16

仕事術

ライフワークとは「醸造する仕事」である

村山 昇
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

私たちは短期の目標達成に、毎期毎期忙しい。そんな中、何十年という時間軸で成し遂げていくライフワークについて考えたい。誰しもライフワークを見出すことはすでに始まっているのだ。

 私は、この話を知ったとき、「塵も積もれば山となる」という言葉を超えて、シュヴァルの「愚直力」に大きな感銘を受けた。そんなものは単なるパラノイア(偏執病)男の仕業さ、というような分析もあるようだが、たとえそうだったとしても、没頭できるライフワークを見つけたシュヴァルは間違いなく幸福者だったと思う。冷めた他人がどうこう評価する問題ではない。

 「~馬鹿」として活き活きと生きること、これができるかどうかは好奇心と意志の問題だ。サラリーマンで忙しくしているから難しいという問題ではない。

◆ライフワークとは「恩返し」
 男子フィギュアスケートの高橋大輔選手は、今年のハンクーバー冬季五輪で銅メダルを獲得した後、将来のことについて―――「スケートアカデミーみたいなものを作ってみたい。僕はコーディネーターで、スピン、ジャンプとかそれぞれを教える専門家をそろえて……」と語っていた。結局、今期も現役続行ということでこの計画はしばらく置くことになりそうだが、彼は将来必ずやると思う。
 また同じように、2年前、プロ野球の読売巨人軍、米大リーグ・パイレーツで活躍した桑田真澄選手も引退表明時のコメントは次のようなものだった。―――「(選手として)燃え尽きた。ここまでよく頑張ってこられたな、という感じ。思い残すことはない。小さい頃から野球にはいっぱい幸せをもらった。何かの形で恩返しできたらと思う」。その後、彼は野球指導者として精力的に動いていると聞く。

 人は誰しも若い頃は自分のこと、自分の生活で精一杯で、自分を最大化させることにエネルギーを集中する。しかし、人は自らの仕事をよく成熟化させてくると、他者のことを気にかけ、他者の才能を最大化することにエネルギーを使いたいと思うようになる。
 働く動機の成熟化の先には「教える・育む」という行為がある。教える・育むとは「内発的動機×利他的動機」の最たるものだ。

 高橋選手や桑田選手も、ひとつのキャリアステージを戦い抜け、その先に見えてきたものが「次代の才能を育む」という仕事であるのだろう。GE(ゼネラル・エレクトリック)のCEOとして名高いジャック・ウェルチも自分に残された最後の仕事は人財教育だとして、企業内大学の教壇に自らが頻繁に立っていた。プロ野球の監督を長きにわたってやられてこられた野村克也さんも「人を残すのが一番大事な仕事」と語っている。
 また、女優のオードリー・ヘップバーンのように晩年をユニセフの親善大使として働き、貧困国・内戦国の遺児を訪ね回るという形の「育む」もあるし、大原孝四郎・孫三郎・総一郎の三代親子のように、倉敷という文化の町を「育む」という形のライフワークもある。

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村山 昇

キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。

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