部課長の対話力〈3〉~目的への貢献意欲を湧かせる

2010.08.17

組織・人材

部課長の対話力〈3〉~目的への貢献意欲を湧かせる

村山 昇
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

部下を的確に動かし指示・命令に長けようとする部課長は、部下を自分に従わせる。部下の貢献意欲を湧かせ組織を生産的にしようとする部課長は、部下を目的に従わせる。

 ある意味、情報伝達のためのコミュニケーションは簡単かもしれません。「何を・どうやるか」について、職権を土台にして伝達すればよいからです。一方、2番目の貢献意欲喚起のためのコミュニケーションは、職権パワーはあまり効力がなく、その上司の語る力、想う力、人間的な包容力、根気が問われることになってきます。部下を一人の人財として慮り、彼(彼女)の意欲を目的につなげ、会社を働く舞台とし、仕事を成長機会にしてやる、そうしたことは大変なことですが、それこそが部課長が行うコミュニケーションのチャレンジングな部分であり、深い喜びの部分でもあります。

◆好かれる上司が「よい組織」をつくれるわけではない
 よい組織における上司と部下の人間関係とはどのようなものか?―――ピーター・ドラッカーは次のように指摘しています。

 「人間関係に優れた才能をもつからといって、よい人間関係がもてるわけではない。貢献に焦点を合わせることにより、初めてよい人間関係がもてるのである。生産的であることが、よい人間関係の唯一の定義である。仕事に焦点を合わせた関係において成果が何もなければ、温かな会話や感情も無意味である。とりつくろいにすぎない」。(『プロフェッショナルの条件』より)

 ここでドラッカーは2つの重要なことを指摘しています。1つめに、よい人間関係を「生産的であること」と定義したこと。よい人間関係というと、「掛け値のない相互信頼」とか「反りが合う」「気楽に付き合える」などと考えてしまいがちですが、事業組織という中でのよい人間関係とはまさにこのとおり――皆が目的を共有し、各自がそこに貢献しようと生産的になれる関係――です。反りが合う、気楽な人間関係はそれに越したことはありませんが、組織の中ではそれが往々にして派閥や親分子分の連れ添いを生み、弊害となる場合も多いものです。

 2つめとして、よい人間関係を持つことは能力・テクニックではないこと。これはハッとする指摘です。私たちは往々にして、人間関係の構築を「対人コミュニケーション法」という技術で何とかしようとしますが、いくらそうした技術を身につけたところで、互いが目的を共有せず、心がバラバラな状態では決して良好な関係は生まれません。組織に属する人間たちが個々のさまざまな違いや対立を乗り越えて、よい関係が構築できるのは、技術のあるなしではなく、 「共通の想い」のあるなしです。
 ですから、部課長が組織を引っ張っていくために最も重要なことは、目的を皆でしっかり持ち合うようはたらきかけをすることなのです。上司は部下に好かれなくてはならない、役員に取り入らなければならない、チームは和気あいあいとしていなければならない、などとやきもき考えだす必要はありません。自分の想いを真正面から語り、共通目的の下にメンバーが貢献意欲を湧かせ、生産的になる―――それに専念することです。
 1番目の伝達のコミュニケーションに長けた部課長が、あるいは三番目の関係性融和のコミュニケーションがうまく人気のある部課長が、必ずしも「よい組織」をつくれるとはかぎりません。

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村山 昇

キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。

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