創造的に逸脱する力 ~『Kind of Blue』ライナーノーツから

2010.06.20

組織・人材

創造的に逸脱する力 ~『Kind of Blue』ライナーノーツから

村山 昇
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

茶の間からサッカー日本代表の決定力不足を指摘することは簡単だ。しかし、このことは日本人全体に投げかけられる「創造的逸脱力の弱さ」問題なのだ。

 The resulting pictures lack the complex composition and textures of ordinary painting, but it is said that those who see well find something captured that escapes explanation. ”

 「芸術家が自発的にならざるを得ない日本の視覚芸術がある。芸術家は薄く伸ばした羊皮紙に特別な筆と黒い水彩絵の具を使い描かなければならない。その際、動作が不自然になったり中断されたりすると、線や羊皮紙が台無しになってしまう。線を消したり変えたりすることは許されない。芸術家は熟考が介入することのできない直接的な手法を用いて、手とのコミュニケーションによりアイデアにそれ自体を表現させるという特別な訓練を受けなければならない。

 その結果生まれる絵は通常の絵画と比べて複雑な構成や質感を欠くが、見る人が見れば、説明の要らない何かを捉えていることが分かるという」。 (訳:安江幸子/ソニーミュージックSICP 20001)

 エヴァンスは紙という二次空間に筆を打ちつけていく書と、時間という流れの中に旋律を放っていくジャズ音楽と、どちらも後戻りのできない即興性に、その芸術的な妙味を見出している。

 即興とは、適当や出鱈目(でたらめ)とは違う。「創造的逸脱による個の表現」であって、そこには、
 ①創造を司る基本技術の習熟
 ②逸脱の勇気、
 ③そして何度やってもそこに貫通する個のスタイル

がある―――それが即興だ。

 私は「キャリアとは何か・働くとは何か」を教える職業に就いてから「キャリア形成はジャズ音楽に似ている」と言ってきたが、その角度で読むと、このエヴァンスの小文はびんびんと響いてくる。

 ジャズ音楽や書を「単発・即興性」の芸術とするなら、クラシックの交響曲演奏や油絵は「反復・重層性」の芸術と言っていいかもしれない。前者は原則、一筆書きで作品を仕上げ、やり直しがきかない。一発勝負の世界だ。逆に後者は、入念に何度もリハーサルをやったり、下書きを描いたりし、音を重ね、色を重ね、筆を重ね作品を組み立ててゆく。時間と空間を往ったり来たりできるので大作も可能になる。その意味で反復・重層的なのだ。
 これはどちらがいい・悪いという問題ではない。どちらを意志的に選んで作品づくりをするかという問題だ。

 人生やキャリアも言ってみれば、“生き様・働き様”という一つの壮大な作品づくりであるが、その創作過程は、「ジャズ・書」的にやるか、「交響曲・油絵」的にやるかの選択だといえる。会社員として組織の中で働き、ある程度軌道に乗った事業の下で担当仕事を任されるのは、「交響曲・油絵」的である。指揮者に相当する中心者がいて、各自が役割を負い、各自が大小の業務を重ねていって、漸進的に事業を競争力のあるものにしていく。このとき多少の失敗も許容される。

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村山 昇

キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。

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