クロマグロ禁輸案否決に喜んでばかりはいられない、それが示す先

2010.04.01

経営・マネジメント

クロマグロ禁輸案否決に喜んでばかりはいられない、それが示す先

中ノ森 清訓
株式会社 戦略調達 代表取締役社長

ワシントン条約締約国会議で、大西洋・地中海産のクロマグロの国際取引を禁止する提案が、当初予想を覆して否決されました。 今回は、国際交渉の中で久々に日本の上手さが目立ったこともあり、関係者の間では、安堵の声や「クロマグロは日本の食文化の主張が認められた!」との戦勝ムードにも似た雰囲気が漂っていますが、今回の騒動を巡って浮かびあってきた課題について考えて行きます。

今回のクロマグロの禁輸提案に対しては、相当数の国が賛成していました。今回の主要な否決理由の一つとなったICCATの資源管理については、現在、加盟諸国の利害調整が上手くいっておらず、その実効性に疑念の声も上がっています。国際的な環境保護団体の影響力も大きくなってきています。

今回の禁輸案否決は、禁輸しなくても資源回復は可能といった日本の主張が通った面もあり、それにより、反面、日本は資源保護に責任を果たすという課題を負うことになったということでもあります。

政治家やマスコミは「国際社会におけるリーダーシップ」という言葉を簡単に使いますが、リーダーシップは、言葉だけでなく、実行し結果を出すことが求められます。国際社会で、行動し、人を動かし、結果を出していくには、予算も必要ですが、お金だけでは結果が伴わず、知恵や根気も必要です。国内でリーダーシップを発揮できていない人たちが、どれだけ国際社会でリーダーシップが発揮できるか疑念はありますが、背負ってしまった以上、我われは「国際社会におけるリーダーシップ」という言葉の重みを受け止めていかなければなりません。

出来ないことを約束すれば、それだけ信用を失い、次からの交渉で、幾らこれだけのことをやりますと述べてもまったく相手にされなくなってしまいます。そうした観点から、「国際社会におけるリーダーシップ」という言葉は、本来、本当に日本が果たすべき、それが我われにとってためになる、我われがどれだけつらくても取り組んでいくという覚悟がある分野に絞って使うべきです。

まあ、漁業を持続可能な産業として確立するというのは、我われ企業にとっては悪い話ばかりという訳ではなく、考えようによってはビジネスチャンスです。漁業を持続可能な産業にするには、水産資源の管理・再生効率を高める必要があります。それには、繁殖、えさ、ITなどを活用したきめ細かい育成管理技術などが必要となり、これらの分野の市場拡大が見込まれます。

実際に、マルハニチロや極洋といった水産大手は、既にクロマグロの養殖に着手しています。また、メルシャンは、養殖コストの約7割を占める餌のコスト削減を目的に、ワイン用のブドウの搾りかすなどを使った人工飼料の3年以内での商品化を目指しています。(出所:日本経済新聞 2010年3月24日 11面)

今回のクロマグロ禁輸案を巡る騒動が示唆しているのは、目の前に勝利にぬか喜びや安堵するのではなく、また、マグロ漁やマグロを食することが日本の文化であるといった空虚なタカ派的主張を繰り返すことでもなく、漁業の持続的成長に向けて取り組むべき時に来ているということだと考えます。

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中ノ森 清訓

株式会社 戦略調達 代表取締役社長

コスト削減・経費削減のヒントを提供する「週刊 戦略調達」、環境負荷を低減する商品・サービスの開発事例や、それを支えるサプライヤなどを紹介する「環境調達.com」を中心に、開発・調達・購買業務とそのマネジメントのあり方について情報提供していきます

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