人事部は、AIによって消滅するか?(【連載28】新しい「日本的人事論」)

画像: Motohiko Tokuriki

2019.06.27

組織・人材

人事部は、AIによって消滅するか?(【連載28】新しい「日本的人事論」)

川口 雅裕
NPO法人・老いの工学研究所 理事長 /一般社団法人「人と組織の活性化研究会」理事

組織・人事に関わる全ての施策は、日本人の特性や自社の独自性への洞察なしには機能しない。それは、OSが違えば、アプリが動作しないのと同じである。欧米の真似でもない、うまくいっている会社の真似でもない、日本企業において本当に機能する組織・人事の考え方や施策について思索・指南する連載。

俯瞰してみれば、現在の日本企業の人事部には手詰まり感が見て取れる。トヨタのトップが最近「終身雇用は、もはや難しい」と口にしたように、長期・安定雇用をインセンティブにはできなくなってきた。長きにわたる経済の低迷や悲観的展望などによって、企業は賃金を抑制しつづけており、報酬をインセンティブにできない状況でもある。定年の延長は人の新陳代謝を遅らせるから、若年層の意欲を削ぎがちで、組織も活性化しにくい。長時間労働の是正は、給与(残業代)の減少に直結するためになかなか進まず、生産性の高い仕事によって就業後の生活を楽しめるような働き方は実現が容易ではなさそうだ。人手不足の中で退職者が出るのを防ごうとするから、実力や成果に基づくメリハリの利いた評価・処遇には及び腰にならざるを得ない。人事部としては組織活性を目指して自由で寛容な風土を作りたいが、「それよりもコンプライアンスだ」と経営や担当部門はルールを作り、監視・チェックを強化して邪魔をする。

人事部がこのような手詰まり状況を打破するために、AIの活用は一つの方法として期待できそうに思う。将棋界がそうであったように、その手があったか、という思わぬ視点や発想を提供してくれる可能性がある。ただしそのためには、2つの問題をクリアしなければならない。

一つ目は、「人事の目的は何か」を設定することである。将棋はルールが明快であり、「勝つ」ことが目的である。(プロ棋士はファン目線を大切にするので、単に勝つだけでなく、勝ち方や負け方にもこだわりがあるが。)一方、人事の目的は設定が容易ではない。もちろん「外部環境に対して組織と人材を最適化する」という人事部の使命はどの企業においても共通だが、具体的な目的は多様に設定が可能だ。どの上司にどの部下をつけるかと考えるとき、「軋轢を起こさない関係」という目的もありえるし、「互いを補い合える」「シナジーが起こる」「成果が出やすい」といった目的もありえる。どのような人材を採用するかと考えるときも、「当社になじむ」「当社にはいないタイプ」「当社にはない才能」「即戦力の実務家」「将来の幹部候補」などいろいろな目的の設定がありえる。目的の設定はAIにやらせることではなく、人間の役割だ。人事部の様々な仕事において、その目的は何なのかを明確にしないままでは、AIに何をさせればいいかが分からない。

二つ目は、人事データという曖昧かつ一面的な情報からAIが導いた回答と、どう付き合うかという問題である。将棋の指し手や局面はすべてデータ化が可能であり、そのデータにはモレがなく、そのデータ以外に勝負の結果を左右したものは存在しない。人事はそういう訳にはいかない。能力やパーソナリティについて適性検査などが表現する内容は、当たり前だが人間の一面であり一部分に過ぎない。異動歴・キャリア、人事考課の内容・結果、研修歴・学歴・資格・健康状態・家族、その他さまざまな人事情報を含めてデータは豊富だが、どこまでいってもモレがあり、曖昧な要素だらけである。組織や人事制度も何度か改定が行われているだろうから、昔のデータをどう捉えるかも難しい。このようなデータ状況で示された「次の一手」は、いくらAIが推奨するものであっても、モノやカネではなく人間を扱う責任やプレッシャーがある人事マンには、無責任な占いのように信用できないだろうし、それでは人事がAIと共存できるようにはならないだろう。

手詰まり感が漂う人事部が、AIの力を上手に活用していく際の課題は、まず、人事部の様々な仕事の「目的」を明らかにすることであり、次に、人事データの一面性と曖昧さを自覚したうえで、AIが導いた思わぬ回答とどう向き合うのかを検討しておくことである。

【つづく】

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川口 雅裕

NPO法人・老いの工学研究所 理事長 /一般社団法人「人と組織の活性化研究会」理事

組織人事関連(組織開発・人材育成・人事マネジメント・働き方改革・健康経営など)や、高齢者・高齢社会をテーマとした講演を行っています。

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