コンピュータに負けて分かった、将棋棋士の凄い頭脳

2013.04.25

組織・人材

コンピュータに負けて分かった、将棋棋士の凄い頭脳

川口 雅裕
組織人事研究者 /NPO法人「老いの工学研究所」研究員/一般社団法人「人と組織の活性化研究会」世話人

「電王戦」で、コンピュータがプロ棋士に3勝1敗1分で勝利した結果を、どう見るべきか。

プロ棋士5名がコンピュータと戦った将棋棋戦「電王戦」で、コンピュータが3勝1敗1分で勝利した。『ついに将棋でも、人間がコンピュータに勝てない時代が来た』といった報道が多く、棋士の方々の反応の中にもショックを隠せない様子があったが、この結果をそう単純に理解すべきではない。職場にあった計算業務がコンピュータに取って代わられたのとは、根本的に事情が異なるからだ。

例えば、給与計算では税や保険料の仕組み、自社の給与制度などをプログラムしておけば、変更内容を入力したあと、数クリックで正しい計算結果が出力される。これと同じように、将棋のルールに基づいてコンピュータに計算させたら、プロ棋士に勝てたというわけではない。ルールははっきりしているが、そもそも何が正しい手なのか、どうしたら将棋に勝てるかはまだ分かっていない。だから、どのようにプログラムを作れば強くなるのかは長い間、暗中模索であったし、実際に将棋ソフトはプロの敵ではなかった。

将棋ソフトが強くなったのは、一つには、プロ棋士の視点や思考方法を組み込んだからだ。形勢判断の仕方、駒や一手の価値、損得の見方などをプロから学び、これをプログラム化していった。もう一つは、過去にプロが残した膨大な棋譜をデータベースにし、それを基に思考・判断するように改良したことである。詰め将棋のような最終盤の正解がある局面とは違って、非常に選択の幅が広い序盤戦では、理詰めの計算よりも構想力が問われるため、棋士が過去に指した形、手順、セオリーを真似るようにした。これによって、ソフトが劇的に強くなったと言われている。つまり将棋ソフトの強さの源は、計算力というよりも、プログラムの底流にあるプロ棋士の視点や思考方法と、プロ棋士たちが残してきた棋譜なのである。

今回の結果を受けて注目すべきは、過去も含めれば何百人ものプログラマーがプロ棋士たちの思考に学びながら改良に改良を重ね、棋士が残してきた棋譜をデータベースにし、さらに600台以上ものコンピュータをつないで戦ったにも関わらず、拮抗した戦いを続けたプロ棋士の頭脳の凄さだ。電王戦は、将棋棋士の凄さを改めて証明したのである。今回参加した棋士には20代前半の若手もいたが、それは、十数年勉強すれば、将棋のような複雑なものであれば、コンピュータと対等に戦えるようになるという人間の頭脳の可能性を表してもいるだろう。

プロ棋士の方々は、今回の勝負の結果を悲観的に受け止めるべきではないと思う。多くのファンの尊敬や親しみの気持ちは何も変わっていないし、将棋ソフトの進化は棋士の貢献のおかげだと知っているからである。だから、コンピュータとの対戦は続ければよいと思うし、続けることによって別の期待も持てる。今回何度か、人間なら一瞬も考えないような手をコンピュータが指した。これは、人の持つバイアス、あるいは将棋の知識や歴史に影響された棋士の先入観や盲点の結果かもしれない。それが棋士にとって新たな気付きになるのであれば、定跡やセオリーの進化を促し、将棋界は更に面白くなるはずである。

高齢者の充実したライフスタイルを提言する、「老いの工学研究所」

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川口 雅裕

組織人事研究者 /NPO法人「老いの工学研究所」研究員/一般社団法人「人と組織の活性化研究会」世話人

組織人事関連(マネジメント・リーダシップ・人材育成・採用)や、高齢者・高齢社会をテーマとした講演を行っています。

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