ソニー「若返り戦略」の不安と期待

画像: Gordon

2015.09.30

営業・マーケティング

ソニー「若返り戦略」の不安と期待

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 ソニーがハイレゾ対応のウォークマンの新モデルとヘッドホンの新シリーズを発表した。若者層を中心ターゲットとしたその戦略に筆者は不安と期待を持っている。それは・・・

■若者は「ハイレゾ」に興味を持つのか?
 前掲の調査はあくまで「認知度」を調べたもので、購買意向を聞いた者ではない。そもそも、若者はハイレゾに、もっと平たくいえば今以上の音質に対するニーズがあるのだろうか。
 ニーズという言葉の意味を正確に表すなら、「現状と理想的な状態のギャップ」である。つまり、ニーズの有無は若者が現在聴いている音質に対して、もっと理想的な音質を求めているのかがポイントだ。ニーズは「不」という字に置き換えることもできる。現在の音質に「不満」や「不足」「不十分」などと考えているかということである。
 ソニーのウォークマンAシリーズとh.earのキャンペーンサイトを見てみると、「ゾクゾク ハイレゾ」「圧縮しない、この快感。」というキャッチコピーがまず示されている。現在スマホや携帯音楽プレイヤーに用いられているMP3などのフォーマットは、データ圧縮によってデータ容量を食わないようにしているが、それをしていないからこそ音質が良いということだろう。しかし、そのコピーが若年層に刺さるかはかなり疑問だ。日々圧縮された音を聴いて慣れきっているし、そもそもそれが圧縮されているということの認識も低いだろう。ハイレゾはCD以上の音質が売りだが、若年層でも特に10代などは、そのCDの音に接していた期間も短いため覚えていないだろう。そこに「不」の字、ニーズはないように思われるのが最大の不安だ。

■ソニーは「ニーズ創出」できるのか?
 ニーズがないなら作り出せばいい。顕在ニーズばかり追っていてはすぐに競合との泥仕合になる。自らニーズ喚起することが重要だ。その際、ターゲットとその喚起策がうまく整合するかが成否を分けるといえる。
 若年層というターゲットと、施策である4Pの整合性を検証したい。
 Product(製品)の特徴はそもそもの「音がいい」ということ以外には、前述の通り鮮やかな色とバリエーションが挙げられるが、製品の価値で考えれば「音がいい」が対価を払う意味としての「中核的価値」だとすれば、色とバリエーションは中核価値とは直接関係ないが、あると価値が高まる要素である「付随機能」である。ハイレゾでないプレイヤーやヘッドホンでもカラバリ展開をしている商品もあるし、それだけで買いたいと思わせるのは難しい。ここは、プロモーションなど、他の3つのPの要素と合わせ技で、本来の「音がいい」という中核価値、それを実現している「ハイレゾ機器」という「実体価値」を魅力に感じさせることが欠かせない。
 Price(価格)は16GBモデルがソニーストアで27,800円(税別)。音質はともかく、ザイズ感的にアップルのiPod nanoを同等クラスとするなら、アップルストアで同じく16GBが17,800円(税別)なので1万円の差は大きい。但し、ウォークマンAシリーズにはノイズキャンセリング機能付きイヤホンが同梱されており、それで電車の中など屋外のどこでも高音質が楽しめるという点が売りの一つになっている。ノイズキャンセリングイヤホンの市場価格はカカクコムで見れば、おおよそ5,000円~10,000円。それを加えても同等か少し割高なので、ハイレゾのエントリーモデルとしてはもう少し手軽な価格を実現したいところといえるかもしれない。
 Place(販売場所)は普通に家電量販店などが中心になると思われるが、家電量販店の中心顧客は中高年だ。とすれば、若年層を狙うなら例えばセレクトショップや雑貨店などとタイアップする等、ターゲットに合わせたチャネル界初も平行して行いたいところだ。
 Promotion(販売促進)は、キャンペーンサイトに掲載されているように、モデルの松岡、モデル・フリースタイルバスケットボーラーのZiNEZ、俳優・映画監督・ミュージシャンのDEAN FUJIOKA、ダンサー・振付師の仲宗根梨乃という4人の若年層から支持の高いキャラクターが集められ、商品の魅力である「圧縮しない快感」を語っている。彼らにインスパイアされるような広告などで注目を集め、興味・関心を高める事ができるかが最初のハードルだろう。そして最も重要なのは、「体験させること」だ。前述のように圧縮された既存の音質に慣れてそれ以上を求める意識がない以上、驚きを与え一気に欲求を喚起するような体験が不可欠である。現在のところ、東名阪の自社ショールームやストアでの展開しか予定されていないようだが、もっと多くの拠点展開が必要だ。家電量販店に行けば販売のために実機は展示されることになるが、前述の通りターゲットの若年層と家電量販店は既に距離ができてしまっている。売り場での展示以外にも、もっとターゲットの集まる場所での体験イベントなどを数多く展開することが最大のキモになると思われる。

 少し大げさに言えば、この商品はターゲット層の拡大を図り、ブランドを復活させる意味からもソニーの音楽プレイヤー事業の今後を占うものとなりそうだ。発売は10月10日からということなので、それまでの動きと、発売後の展開を見逃さないようにしてみたい。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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