「価格・価値・差別化の関係」を理容店のヒゲ剃りで考える

画像: Thomas Leuthard

2015.08.21

営業・マーケティング

「価格・価値・差別化の関係」を理容店のヒゲ剃りで考える

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 髪は美容サロンで切るが、時々、理髪店でヒゲを剃ってもらう。ヒゲは毎朝自分で剃っているが、たまに人にやってもらうと気持ちがいいからだ。気持ちがシャキッとして、少し気合いも入るので、プレゼンや講演前には、一種のおまじない的な効果もある。では、そんなサービスの価格と価値は、どんな関係であれば顧客に受け入れてもらえるのであろうか。そして、競合とはどのように差別化を図るべきなのだろうか。

 理容業界に話を戻すと、理容室は男性も多く美容サロンに流れてしまい、激しい過当競争の時代に入っている。つまり成熟期を通り越して衰退期だ。そんな厳しい環境のなか、法令でシェービングができない美容サロンに対して、理容店にとってヒゲ剃りはキラーコンテンツなのだ。そして、「ヒゲ剃りのみ歓迎」の張り紙は理容各店の入り口に掲出されている。
 その中で、1500円店は、付随機能までのフルサービスを魅力として提供している。一方、2,500円の店は「実体価値」である「確かな技術」で勝負している。一見、前者の方が現在のプロダクトライフサイクルと適合しているように思えるが、中核価値の「ヒゲをさっぱりなくす」において、手早さを追求するあまり顧客に不安(スリル?)を与えるのはイタダケナイ。実体価値である「確かな技術」に不信感を持たれることになる。しかし、厳しい環境の中で「差別化」を考えた時、同価格でより多くの価値を提供することによって他店より優位に立ちたくなるのは必然ともいえる。そのバランスをどう取るかが問題なのだ。

■「コストリーダー戦略」と「差別化戦略」という2つの選択肢
 「価格」と「差別化」という、本来比例関係(前回の記事:「サービスの価格と価値を再考する」で紹介した「バリューライン」)にある 要素を同時に実現するのは容易ではない。故に、コストを武器に戦う「コストリーダー」のポジションにある企業は、差別化要素や品質はそのままで、まずは価格を引き下げて顧客アピールを計る。メーカーなら大量生産によって生産設備などの固定比率と生産ラインに張り付く人件費などの変動費の低減を図る、「規模の経済・経験効果」を最大限効かせるのが基本戦略だ。理容業界ではQBハウスがこの典型だ。大量に集客して、技術者の手が空く隙間なく高い回転率で規模の経済(地代家賃などの固定費率の低減)と、経験効果(技術者の人件費率の低減)を図っている。

 対して、差別化戦略は価格はそのままで、自社の強みである差別化要素を徹底して強化するのが基本戦略である。

 この「コストリーダー戦略か、差別化戦略か」という観点で考えれば、前例の1,500円の店はムリして「価格を下げつつ、多種のサービスを提供する」というコストリーダー戦略と差別化戦略の両方を実現しようとしていることがわかる。しかし、前述の通り、価格低減と価値向上は二律背反的であり同時に実現するのは容易ではない。
 2,500円の店は業界相場通りではあるが、本来の「技術力」で差別化戦略に徹しているのは正解だといえるだろう。だとするなら、1,500円の店が今後、選択すべき戦略は、料金を値上げして「2500円25分でフルサービス」を行うの差別化戦略か、価格はそのままで「1500円の安価なヒゲ剃りサービス」に徹したコストリーダー戦略を取って、現在のマイナスポイントである「サービス提供の丁寧さ」を改善するべきだといえるだろう。

 昔の人はうまいことをいう。「二兎を追う者は一兎をも得ず」。今回の理容業のヒゲ剃りサービスの例だけでなく、「業界最安値」などとして価格を提示し、さらに豊富なメニューや提供品質の良さなどを同時に訴求している例は様々な業界や企業で散見される。しかし、結局、その無理は続けることができなくなったり、結局は顧客に価値を認めてもらえなかったりする結末も枚挙にいとまがない。
 結局は、まずは継続可能な戦略オプションを検討して、自社はどのような訴求をする存在となることを目指すのかを明確にすることに尽きるのである。

(加筆改稿・再掲載)

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金森 努

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コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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