ミツカンの納豆戦略にマーケティングの神髄をみる

2008.02.06

営業・マーケティング

ミツカンの納豆戦略にマーケティングの神髄をみる

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

ミツカンといえば200年の伝統を誇るお酢のメーカー。しかし、納豆の世界で実はマーケティング戦略の王道ともいうべき戦い方でトップを猛追しているのだ。

■自社のドメインを活かした戦い方

 ミツカンのドメインは何といっても酢の醸造である。米と菌を発酵させて作る技術。それを大豆で行うのが納豆。自社の発酵や菌に対する技術力の高さを活かし、発酵という大きな装置を必要とする事業の運営ノウハウにも長けている。だからこそ、納豆業界に進出し、4~5社がダンゴ状態でタカノフーズに大きく水を空けられ存在した中からあっという間に抜け出すことができたのだ。新規事業展開のモデルとしては正にお手本となるような、自社のバリュープロポジションの活かし方である。

■チャレンジャーとしての差別化戦略

 再びミツカンの納豆製品に目を向けてみよう。チャレンジャーの戦い方の基本は差別化戦略である。その差別化も実に見事に製品戦略に活かしている。先の「におわなっとう」に続いて発売されたのが「ほね元気」。骨を丈夫にする成分ではあるが、食品に含まれることが少ないビタミンK2。それを作り出す菌を見つけ出せたのが成功のカギ。ここでも菌の技術が活かされている。「明確な科学的根拠がなければ健康効果は謳わない」と同社は明確なポリシーを持っているが、「ほね元気」は科学的なデータを基に、厚生労働省から特定保健用食品の認可を受けている。なっとうでほねが丈夫になるという、考えてもみなかった高付加価値を差別化ポイントとして示したわけだ。
 もう一つ特徴的なのは昨年3月に発売になった「梅風味 黒酢たれ」だ。やってみるとわかるが、普通の納豆に酢を混ぜるととてつもない異臭が発生する。流行した黒酢健康法と、納豆は身体にいいというテレビ放送から、「両方一緒にしたらどうなるのかな?」と試して後悔のほぞを噛んだことがある。しかし、納豆のにおいを消す技術がミツカンにはあった。そしてお酢は同社の200年の伝統を誇る正に王道の製品である。「梅風味 黒酢たれ」は同社の強みを最大限に生かし、他社にできない差別化を図った戦略商品である。

■指名買いのポジション獲得にむけた挑戦

 とはいえ、納豆といえばスーパーの商品棚に並んでいるものから、価格をみて適当に買われてしまう「低関与度商品」であることは間違いない。そこから抜け出して「指名買いのポジション」を獲得することがミツカンの戦略なのだろう。そのために強力な商品差別化を図っているのだ。自社の技術を活かし、消費者が自らの好みに合わせて選択するという行為を引き出すため、タレの味や食感にこだわり、次々と商品を上市していく。豆乳を使用した「大豆芳醇」。2つのたれを混ぜわせ、ふわっとした食感を作り出す「ふわとろ」など。ミツカンの挑戦は続く。
 冒頭のクープマンの目標値で言えば26.1%が「市場影響シェア」といわれるポジションだ。市場に影響をもたらす、一歩抜け出した状態を示すシェアであり、2位以下であってもトップを狙えるポジションと言われている。その数字を獲得する日も極めて近いのだろう。

 

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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