「組織人」と「仕事人」~働く忠誠心はどこにあるか

画像: Official U.S. Navy Page

2014.01.17

組織・人材

「組織人」と「仕事人」~働く忠誠心はどこにあるか

村山 昇
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

あなたの働く忠誠心は、組織(会社)にあるだろうか? それとも職業・仕事にあるだろうか? その忠誠心の置き方によって「組織人」の意識と「仕事人」の意識とに分かれる。


組織人の図式において着目すべき点は、仕事が組織のなかに囲われているということだ。これは、組織が雇用や人事権、業務命令権などを通して仕事を実際的に握っていることもあるが、本質的には、働く個が、「自分はその仕事分野で独立しているわけでもなく(するつもりもなく)、仕事は組織のなかにあり、組織から受けるものである。突き詰めれば今のこの仕事は自分のものではない」という意識を表している。必然的に、働く個は、組織との関係を「タテの主従」関係ととらえる。組織人はそのタテ関係を前提にしたうえで、頑張ろうとする。

他方、仕事人の意識はまったく異なる。仕事人は、たとえ組織に雇われの身であっても、「今のこの仕事は自分のものである」と強く認識し、仕事を自分のなかに収めている。そして「組織は自分に機会と場を提供してくれる存在であり、この組織でずっと働くかもしれないし、将来独立することだってあるかもしれない」と考えている。そこには担当仕事を一つの職業として抱く、プロフェッショナルとしての矜恃がある。

ともかく組織人は、仕事は組織から発生し、組織から言い渡されるものだという心の姿勢に傾きやすい。そこに依存心が混じるとどうなるか───自律性が脆弱化する。

個々の働き手の自律性の弱まりは、さまざまな症状になって現われる。言われたことはやるが言われた以上の仕事はしない、先回りした行動ができない、仕事をつくり出せない、自身の役割を広げることをしない……などだ。また、そこで問題が根深いのは、本人は仕事をそれなりにこなしているという自覚でいることである。ともかく、いろいろと“お膳立て”をしてやらなければ、十分な仕事をやれない状態になる。

◆組織の不正・不祥事の温床
もう1つ、組織人の意識が潜在的に抱える問題について指摘しておこう。それは、顧客目線が組織都合になりがちであることだ。組織人は自分が雇ってもらっている組織を船とみる。当然、その船が沈没したり、自分が下船を命じられたりすることを極端に怖れる。そのために、組織の自己保存ための方策には寛容的にならざるをえない。

たとえば、顧客に対して、ある売り方や取引条件が組織に都合よすぎるという状況があったとしよう。あなたが一消費者の立場からみたときに、それは理不尽であり、あきらかに売り手のわがままだと感じている。さて、そのときに、あなたは組織に向かって「そのやり方は改めるべきです」と言い切り、変革の行動に出られるだろうか。

わかりやすい例を出してみよう。あなたは、ある中堅食品メーカーに勤めて10年になる。ここ最近、会社の業績がかんばしくない。従業員減らしが始まるという噂も耳にする。そんななか、ある商品の売れ行きが好調で、それがかろうじて会社の売り上げを支えている。社長からの命令で、あなたの部署もその商品の拡販をやることになった。が、その商品は食材偽装まがいのもので、法律の網をくぐったきわどいものであることを知った。そのとき、あなたは組織に対し、どう行動できるだろう。

もちろん、いまこれを読んでいるあなたは、頭のなかで「そんな犯罪じみたことはやりたくない。会社に反対意見を言う」となるだろう。しかし、現実に目の前に会社の倒産が見え隠れし、あるいは、自分の解雇の脅威があったなら、ほんとうにそこで組織に背けるだろうか。仕事人意識を強く持って働いている人間であれば、仕事は自分のなかにあり、他で雇われうる力も保持しているだろうから、そこを去ることは十分できるのだが。

実際、企業や官公庁でさまざまな不正・不祥事が起こる。そのときの要因を探っていくと、組織の自己保存・そこで働く者たちの自己保存が至上目的化して生じるケースが後を絶たない。いずれにせよ、組織人の意識に依存心が加わると、顧客目線が組織都合になったり、組織の自浄作用が弱まったりする害が起こる。

◆「出世」とは何か?
ところで、「出世」とはどういうことだろう。組織人のとらえ方としては、部長に上がったとか、役員になったとか、そういう社内の階段を上っていく話になる。

電通の元プロデューサーとして有名な藤岡和賀夫さんは、『オフィスプレーヤーへの道』の中の「“出世”の正体」という章でこう書いている。

「自分の会社以外の世界からも尊敬される、愛される、
それは間違いなく『世に出る』ことであり、『出世』なのです。
そこで肝心なことは、『世に出る』と言ったときの『世』は、
自分の勤めている会社ではないということです。
(中略)
自分の選んだ会社を“寄留地”として、
そこを足場として初めて『世に出る』のです。
(中略)
“寄留地”を仕事の足場として、ビジネスマンという仕事のやりかたで、
もっともっと広い社会と関わっていくということが『世に出る』ということなのです」。


以前、韓国のあるIT会社のマネジャーから面白い話を聞いた。その会社では、マネジャークラス以上の人間は、少なくとも年に1回、業界のカンファレンスやビジネスエキスポなどで講演やセミナーをしなければいけない、というルールがある。実行できなければ、降格評価の材料となるそうだ。「社内の管理業務だけに閉じこもっているな。社外に開いて、『この分野に○○社あり』『この分野に“誰々”あり』とアピールしてこい」というもので、これは、いわば、「組織内“仕事人”」をつくり出す方針として注目に値する。

繰り返して言うが、組織人の意識自体が悪いわけではない。ただ、組織人の意識は、本質的に依存心と結びつきやすく、保身的、閉鎖的な姿勢に陥りやすい。だからこそ、仕事人の意識を意図的に取り込む努力をしなければならない。仕事人の意識は、自律心を呼び起こし、革新的、開放的な姿勢を強める。ともかく日本の会社・官公庁は、「組織ローカルな人間」を育てすぎるし、働き手本人たちもそこに安住したいと望む傾向がある。私はみずからが行う人財育成プログラムで、「仕事コスモポリタン」を増やしたいと思っている。その仕事分野において、境界を越えていく世界市民的な人間が日本の仕事現場には少ないからだ。

続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。

Ads by Google

この記事が気に入ったらいいね!しよう
INSIGHT NOW!の最新記事をお届けします

村山 昇

キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。

フォロー フォローして村山 昇の新着記事を受け取る

一歩先を行く最新ビジネス記事を受け取る

ログイン

この機能をご利用いただくにはログインが必要です。

ご登録いただいたメールアドレス、パスワードを入力してログインしてください。

パスワードをお忘れの方

フェイスブックのアカウントでもログインできます。

INSIGHT NOW!のご利用規約プライバシーポリシーーが適用されます。
INSIGHT NOW!が無断でタイムラインに投稿することはありません。