「面白い恋人」vs「白い恋人」から、コンプライアンスを考える

2011.11.29

組織・人材

「面白い恋人」vs「白い恋人」から、コンプライアンスを考える

川口 雅裕
NPO法人・老いの工学研究所 理事長

この紛争を、「そう、うるさいこと言わずに」「まあ、いいじゃないの」と笑って見ている人も多いと思う。確かに、オリンパスや大王製紙に比べれば額も微々たるものだし、パロディーの笑えるネーミングについて大真面目になって争っている絵も、それこそ“面白い”。しかし・・・。

吉本興業が「面白い恋人」の販売に当たって、「白い恋人」側と一切の協議をしていなかったと知って、かなりの違和感を覚えた。多くの人は、両者で話し合いがあって、ブランド使用料くらいは払っているものと思っていたのではないだろうか。でなければ、中国のひどい商標権侵害と何も変わらない。「白い恋人」側が、「商品名も『面』の字が入っているだけでほぼ同じ。パッケージも背景の色彩や、模様となっているリボンの形状、文字やイラストなどもそっくり。」と提訴の理由を発表しているが、誰が見てもその通りだろうと思う。

私自身、毎週新喜劇を楽しんでいるし、タレントさん達も大阪の人達に本当に愛されている。芸能に対する大きな功績は否定しようもなく、関西での企業としての存在感は立派なものである。一方で吉本興業は、これまでも経営をめぐる創業者一族との争いや、タレントと暴力団との関係など、様々なスキャンダルが報じられてきた。吉本は事実無根としており、大メディアもそういう報道は行わないが、テレビ局と持ちつ持たれつの関係にある以上それは当然で、週刊誌の内容も大きくはずしていないだろうとも思える。いずれにしても、今回の件も含めて、上場企業としてはその企業統治に疑問符をつけざるをえない。

そもそも、吉本興業は、タレントの派遣業あるいは番組制作請負業である。普通の人材派遣業や請負業より儲かるのは、派遣(使用)する人材の単価が高く、人件費や労務管理・福利厚生にかかるコストがそれに対して安いからだ。ただし、普通の人材派遣業や請負業に比べるとパイが限られている。テレビやラジオがお笑い一色になることもないし、お笑いイベントが劇的に増えるはずもないので、これ以上は大きな成長は望みにくい。人材派遣・番組制作請負では、そろそろ限界が来ている。しかしながら上場してしまっているので、株主からは常に成長が求められる。従って、人材派遣業以外の収益源を早期に作り上げないといけない、という状況にあるのである。

劇場の建て替えなどで不動産賃貸業へ進出したし、お笑いコンテンツのネット配信や輸出を試み、様々な商品を吉本ブランドで販売することにも以前から取り組んでいる。ただ、それらのいずれも好調とは言いがたいのが実際のようだ。今回の一件は、新規事業がうまくいかない焦りや危機感が背景にある。その中で、大阪的な軽いノリでやってみたうちの一つが、たまたま当たってしまったので、そのまま拡販を図っていたということなのだろうが、「白い恋人」側がどう思うかという発想がなかったのが驚きである。それが、吉本の企業体質なのだろう。

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川口 雅裕

NPO法人・老いの工学研究所 理事長

「高齢社会、高齢期のライフスタイル」と「組織人事関連(組織開発・人材育成・人事マネジメント・働き方改革など」)をテーマとした講演を行っています。

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