「デザイン思考」は経営・ビジネスを変えるか

2010.10.28

組織・人材

「デザイン思考」は経営・ビジネスを変えるか

村山 昇
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

経営・ビジネスは「数」を追求する。その結果、さまざまな問題も起こってきた。そこに「美」という盾を持ったデザインが教育の角度からひとつの提起をする。

 ◆「新しい統合」の学び舎:米スタンフォード『d.school』
 この桑沢デザイン研究所の『STRAMD スーパー戦略デザイン経営専攻』には先行例がある。5年前に開校した米国スタンフォード大学の『d.school』である(加えて、東京大学には『i-school』というのができた)。“d.school”の「d」とはデザインのことで、ビジネス・スクールの“b.school”に対抗するものだ。ここでは物事をクリエイティビティ、デザインの思考から横断的・統合的にとらえ、イノベーションを事業の変革・創出、社会起業、行政の世界に展開できる人財をつくりだすことを目的としている。ちなみに、開学にあたっては米国で最も有名なデザインファームのひとつIDEO社の創業者デイビッド・ケリー氏と、独のソフトウェア会社SAPの共同創業者ハッソ・プラトナー氏が巨額の創設資金を提供したと言われる。
 『d.school』のウェブサイトをみると、その先行ぶりに驚かされる。このスクールのコアコンセプトは「Design Thinking」(デザイン思考)である。同サイトの「Our Vision」のページの見出しを抜粋すると……
 ○“We believe great innovators and leaders need to be great design thinkers.”(偉大な革新者・指導者は、偉大なデザイン思考者である必要があると私たちは信じる)
 ○“We believe design thinking is a catalyst for innovation and bringing new things into the world.”(デザイン思考は、イノベーションと新しいことを世の中にもたらす触媒であると私たちは信じる)
 ○“We believe high impact teams work at the intersection of technology, business, and human values.”(高い効果をあげるチームは、テクノロジー、ビジネスおよび人間の価値の交差する場で働くと私たちは信じる)

 『d.school』は、スタンフォード大学の各学部(エンジニアリング、医学、経営学、人文学、政治学など)から学生と教官が集うと同時に、産業界や行政の第一線からプロフェッショナルを招き、大きな問題を横断的に解決することを協働して学ぶ場として設けられた。
 彼らの考える「デザイン思考」とは、ある課題に対し、多分野からのアイデアをさまざまに取り入れ、組み合わせ、いち早く試作品をつくり、フィードバックを得て、また試作を繰り返す、そうした中から最適の解を形作っていくことをいう。同スクールでは、特定の知識や技能を教授するのではなく、「デザイン思考」という思考態度を身につけさせることに主眼を置いている。
 具体的にどんな科目が設定されているかは、同スクールのウェブサイトを見ていただきたいのだが、全体に共通する特徴は、同スクールが標榜するとおり“multidisciplinary”(複合的な分野の鍛錬)であること、そして米西海岸シリコンバレー地域特有のベンチャー精神が脈打つこと、さらにはそのベンチャー精神の向けどころがソーシャルビジネスであることだ。

次のページ◆出でよ「美の賢人」

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村山 昇

キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。

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