自らが属する業界が成熟化し、過当競争が激しくなってきたとしたら、どのような生き残り策を考えるだろうか。その好例が8月10日の日経MJ一面に二つ並んでいた。100円ショップとタクシー。共に苦境に立たされている業界である。
では、成功確率が高いパターンは何なのか。それは、既存の顧客に、既存の製品を提供する「市場浸透」と呼ばれるパターンである。ポーターによれば成功確率75%だという。
100円ショップ業界では、第2位に躍進し、日経MJの記事に取り上げられているセリアの展開が「市場浸透」である。
同社は100円商品にこだわり、取扱商品を厳選し、店舗設計や陳列方法に工夫をこらし、とても100円ショップには見えないオシャレな「カラーザデイズ」というショップを展開して多数の顧客から支持を集めているのである。
セリアの展開は「市場浸透」であるが、業界定義を考えてみると、必ずしも従来型の100円ショップ業界で戦っているとはいえない。競合各社が100円をあきらめ、広汎な「雑貨業界」に進出したのに対し、同社はより業界定義を狭め「オシャレ100円雑貨業界」という業界を創出して、魅力を高めたのである。
もう一つの記事、「マーケット仕掛け人」で取り上げられているタクシーのANZENグループの展開も示唆に富んでいる。タクシー業界は2002年のタクシー規制緩和によって増車が容易になったことと、同時期のデフレ不況から続く経済の低迷による需要減で明らかな供給過剰となっている。そんな環境下における同社の生き残り策も「市場浸透」である。
病院の順番取り、買い物の代行、子供の送迎など乗務員がタクシー運行にプラスアルファして提供するサービスメニューを8種取りそろえたという。「流しを拾う」という、いわば一期一会が都市部での利用形態であるが、それを「顧客を囲い込む」という発想に転換したのである。
タクシーは運送業であるが、同社は業界定義を「タクシー救護事業」と位置づけているとのことである。自らの属する業界がオイシクナイ業界になってしまったら、積極的に業界定義を転換することが重要なのだ。輸送業であると同時にサービス業であるタクシー事業のサービスの側面を伸長させた展開なのである。
不景気を嘆き、漫然と営業していても何の解決にもならない。環境の変化に合わせ、顧客のニーズをとらえ、事業を変化させて顧客を囲い込むことの重要さを2つの記事が教えてくれている。
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2009.02.10
2015.01.26
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。