事業概念の大転換を図る「アズ・ア」モデルの発想法

2022.04.14

経営・マネジメント

事業概念の大転換を図る「アズ・ア」モデルの発想法

村山 昇
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

近年、日本企業は「製品スペックで勝っても、事業で負ける」というような問題に直面することが多くなりました。情報や知識、技術よりも上位にある事業概念レベルでの創造力に弱さがあることが1つの要因ではないでしょうか。「概念のイノベーションを起こす力」ともいうべき、事業に対する在り方、中核的価値、グランド・コンセプトを打ち立てる思考力が、いま強く求められています。

リースにおいては契約期間中、定額利用料を払うという、いわゆるサブスクリプション型課金が用いられます。この業態はモノ的価値ではなく、「移動手段を得ること」「(高級車などを)運転できる喜び」など、コト的な価値を売るのが特徴です。

そんな中、進化形として起こってきたのが第Ⅲ業態の「モビリティを売る」です。この形が進化させたのは次の2点です───

 1)中核的(コア)価値を打ち出し、提供する価値の軸を鮮明にする
 
2)その価値を満たす統合的な仕組みを構築する

モノやコトが溢れつつある中で、自動車メーカーがたどり着いた答え、すなわち「自分たちが究極的に売りたいものは『モビリティ』という価値なのだ!」という自己発見はとても大きな出来事ではなかったでしょうか。自動車という製品が購入客に届ける価値はいろいろあります。しかし中核的価値をいざ、「モビリティ」と定めたときに第Ⅲの業態への転換が大きなうねりとなって生じてきたのでした。

売るものは「製品」ではなく「製品の中核にある価値」である

メーカーはこれまでともかく「自社製品を売りたい、自社製品を使わせたい」という発想で事業を動かしてきました。製品を売ったり、リースやレンタルを通して使わせたりすることで、大量生産する品がどんどんはけていくからです。第Ⅰ業態も第Ⅱ業態もその考えをベースにしたものでした。

しかし、売るものは「製品」ではなく、「製品の中核にある価値」であるとしたときに第Ⅲ業態は誕生します。この「中核にある価値」について、ピーター・ドラッカーは『現代の経営』(英語版の初版は1954年刊行)の中でこう述べています。

「ガスレンジのメーカーは、競争相手は同業他社と考える。しかし、顧客たる主婦たちが買っているのは、レンジではなく料理のための簡単な方法である。電気、ガス、石炭、木炭のいずれのレンジであろうと構わない」。

これは企業に対し、事業の目的をガスレンジという製品に紐づけるのではなく、「日常の料理における簡便さ」という中核的価値に紐づけなさいという指摘です。中核的価値の提供が最上位の目的としてあり、そのもとに手段として製品および製造技術がある。と同時に、その価値を十分に実現させるためには、ときに他社製品を取り込んだり、他業界との協業を行ったりすることも必要だという考え方です。

技術は変転が激しく、1つのハード技術に凝り固まると事業や組織は柔軟性を保てなくなります。しかしその上位に置く価値は本質的であるほど不変・普遍です。事業目的や組織の存在理由を中核的価値で考えることは、言い換えれば、「変わらざる自己概念の軸」を定め、そのもとで「変えていくべき技術」を自覚する一大作業となります。

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村山 昇

キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。

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